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鉄パイプ→車部品に早変わり 部材-軽量・高強度化を両立
審査委員会特別賞
「自動車ボディ骨格構造を革新する新たな成形プロセス STAF『Steel Tube Air Forming』の開発」
住友重機械工業
鉄パイプがプレス機で自動車部品に早変わり―。住友重機械工業の新技術「STAF」を単純に説明すれば、こうなる。自動車のボディーやフレームなど骨格部材を成形するための新手法で、住重は自動車業界に革新を起こそうとしている。
STAFは「スチール・チューブ・エア・フォーミング」の頭文字を取ったものだ。独自開発した世界で初めての技術で、骨格部材の軽量化と高強度化という相反する要求を両立できる。
骨格部材の代表格が、自動車のフロントガラスの両端を支えるAピラーだ。STAFによる成形でAピラーを細くし、運転手の視認性が向上する効果が見込める。
EVの安全性向上
自動車業界は以前から、軽量化と安全性向上という相反する要素の両方に取り組むことが求められていた。骨格部材を2ー3枚の板を貼り合わせる従来のモノコック構造ではなく、スペースフレームにすることが解決策とみられていた。鋼管を組み合わせて溶接し、トラス状にした立体的なフレームのことだ。住重はスペースフレームの一種として、STAFの開発に取り組んだ。
将来は環境対応のため電気自動車(EV)が普及するが、大容量バッテリー搭載のため重量が増える。その分骨格部材の軽量化が求められる上、事故時にバッテリーを保護するための安全性も要求される。電動化で軽量化と安全性向上のニーズはさらに高まる。
STAFの流れは以下の通りだ。鉄パイプをプレス機の上下の金型とCMSユニットにセットする。CMSユニットには電極があり、鉄パイプの両端から電気を流して約1000度Cに加熱する。
次に高圧エアーをパイプ内に注入し、プレス後の鋼管の両端にあたるフランジ一体で成形する。これが1次ブローだ。高圧ブローを再度注入する2次ブローで断面本体を成形し、材料を金型に密着して急冷して焼き入れして完了だ。
シンプルな成形
自動車車部品では珍しい鉄パイプを使い、シンプルな成形手法を確立した。プレス機メーカーの知見を生かした。新塑性加工開発SBUSTAFプロジェクト営業技術グループの坂巻昂三郎氏は「シンプルさが一番の売り」と長所を挙げる。
STAFは従来の成形方法の長所を組み合わせた手法だ。ホットプレスは強度が高いが、フランジを溶接する必要があり、剛性が低い。ハイドロフォーミングは強度が低い。剛性は高いが、フランジの溶接が必要だ。
STAFは焼き入れすることで、強度が高まる。フランジを一体成形できるため、従来方法のように溶接する必要がなく、剛性を高められる。そのため、板厚を薄くして軽量化できる。別の利点もある。通電加熱は従来の加熱炉に比べ、エネルギー消費が10分の1以下で済む。
プレス機を中心に複数機器をシステム化し、車のティア1に導入を提案する。成形までのサイクルタイム30秒という高速加工も武器だ。上野紀条プロジェクトマネージャーは「既存のプレス機に後付けできる」と導入しやすさを強調する。
成果も出た。車部品試作のトピア(三重県鈴鹿市)に採用され、2022年8月に設備を納入した。試作段階から入り込むことで、ティア1の採用につなげる狙いだ。これとは別に、北米に拠点のある車メーカーでは実車に搭載された。
事業化にあたり、全社プロジェクトとして東京・大崎の本社の経営企画グループ、愛媛県新居浜市のプレス統括部、神奈川県横須賀市の技術研究所と所属の異なる社員を専門組織「STAFプロジェクト」に集めた。
畑違いの分野挑戦
プレス機メーカーの知見を生かしたとはいっても、畑違いの分野への挑戦だった。住重が元々手がけているのは鍛造プレス機で、STAFは板金プレス機の分野に入る。上野プロジェクトマネージャーは「鍛造と板金は違う業界。板金は全く知らなかった」と振り返る。そうした状況から、13-14年度に開発プロジェクトを立ち上げ、10年近い年月をかけて事業化にこぎ着けた。
事業化後の現在は、開発場所の新居浜工場(愛媛県新居浜市)でプレス機や通電加熱装置、ロボットなどの設備によるデモを実施し、試作を請け負うことで、導入を提案している。車業界にはなじみのない手法で実績がないため、設備自体や試作品を見せることが重要になる。特徴や性能、導入時のメリットを理解してもらうことが、受注拡大に向けた第一歩になる。トピアの工場(三重県鈴鹿市)でも、同様に取り組んでいる。
新居浜工場の設備の見学者からは、住重自らが部品メーカーになり、Aピラーなどの部品を成形すれば良いのではと言われることがあるという。坂巻氏は「当社はあくまで設備メーカー。設備を製造・販売したい」と自社の立ち位置を強調する。住重はSTAFを次世代の成長事業に位置づけており、30年12月期に売上高約100億円を目指す。実現に向け、実績を積み重ねたい。