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複数カメラ映像―AIが人物追跡 駅・空港の警備 効率化
文部科学大臣賞
「安心・安全な社会構築を支えるAI映像解析ソリューションの開発」
日立製作所/日立産業制御ソリューションズ
日立製作所と日立産業制御ソリューションズは、人工知能(AI)を活用し、複数拠点・複数個の監視カメラの映像から、リアルタイムの人物追跡や人物の行動認識、荷物の置き去り・持ち去りを検知できる映像解析ソリューションを開発した。空港や鉄道駅などの交通施設をはじめとする公共空間の警備業務を効率化でき、安心・安全な社会の構築に役立てられる。
日立は1997年から類似画像検索技術の開発を始めて、画像や映像の利活用に役立つ製品を提供してきた。2019年には、AIを使ってカメラ映像や記録された映像から人物を検索し、リアルタイムに追跡するシステムを製品化した。技術開発に取り組んだ当時は、「テロ対策などの警備業務においては、空港や交通機関の施設内で特定の人物を効率的に探し当てるニーズが高まっていた」(小味弘典日立産業制御ソリューションズ新事業開発センタ長)という。
19年に製品化したリアルタイムの人物追跡システムは、カメラ映像や記録映像の中から、時間帯を指定して、服装や性別、髪形といった外見の手がかり情報を入力して、候補人物の映像を検索。さらにその候補画像を使って、複数のカメラ映像を検索し、類似する人物の映像を時系列に並べて表示し、現在地まで追跡していく。
数秒で検索
例えば、駅構内で目撃された人物が移動した経路やバスに乗り込む姿などを追跡することが可能になる。その性能は、「ある施設内にいる数万人の中から、着目する人物を数秒で検索できる」(渡辺裕樹日立製作所研究開発グループ主任研究員)というもの。空港や駅などにある警備センター内にシステムを導入し、複数のモニターなどを配置して映像を確認しながら、効率的な警備業務を行うことが可能になる。
正検知95%
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荷物の置き去りや持ち去りを検知するAI技術 -
人の行動を認識するAI技術
さらに22年には、「走る、しゃがむ、倒れる、蹴る、殴る、指を指す、見回す、立つ、歩く」という人の九つの特定行動をカメラ映像から検知する技術や、荷物の置き去りと持ち去りを検知する技術を製品に加えた。特定行動を検知する機能は、人物映像を骨格情報として認識し、時系列に沿ってデータを取得。取得したデータを姿勢、移動速度、関節間距離の特徴量に変換して、どのような行動を取っているか高い精度で検知する。社内評価における9種の行動は正検知率95%以上を達成しており、渡辺主任研究員は「骨格情報を時系列データとして取得して、行動分類に結びつけるのは独自の取り組み」と胸を張る。
置き去り・持ち去り検知は、従来技術が人と荷物の距離関係で検知していたのに対し、新技術は映像中の人と荷物とのつながりを示す特徴をAIに学習させる方法を採用。どの荷物がどの人に紐付いているかという関係性を正確に推定できるため、荷物の近くに複数の人がいても誤まって認識することが少ない。人とモノの所有関係を検知する精度についての社内評価では、平均適合率(アベレージプレシジョン)が実用的と評価される40%以上を達成した。荷物の置き去りと持ち去りを判定できるようになることで、不審物や遺失物の発見、持ち主の早期特定などに役立てられる。
これらのシステムの開発は、日立製作所の研究開発グループがAIなどのコア技術を開発し、日立産業制御ソリューションズが基本製品化した。この基本製品を基にして日立製作所と日立産業制御ソリューションズがそれぞれの顧客ニーズに合わせてカスタマイズなどを加え、映像解析ソリューションとして販売している。
工場の安全管理に
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服装などの手がかり情報から人物映像を検索する
19年にリアルタイムの人物追跡システムを製品化して以来、「空港や鉄道駅などの警備業務を効率化するニーズが高く、工場やインフラの安全管理でも利用されるケースが増えている」(小味弘典日立産業制御ソリューションズ新事業開発センタ長)といい、導入実績は30施設、カメラ3700台以上に及ぶ。行動認識や荷物の置き去り・持ち去りを加えた新しいシステムでも、採用が決まった案件が出始めている。
映像監視システム市場は、年平均成長率11%程度で成長し、25年には約8兆円に達するとみられる。日立グループは従来の交通機関に加えて、大規模施設やイベント会場などの警備ニーズをターゲットに提案を増やし、ソリューションを拡販していく考え。
対象施設の規模が拡大し、カメラ台数が増えることで見逃しのリスクなどが増える可能性もあるため、行動認識や置き去り・持ち去りといった不審事象を検知する新機能と組み合わせることで、混雑を可視化したり、リスクを早期に発見したりできる機能を強化していく。また、複数の拠点に導入している映像監視システムを統合的に管理し、スマートシティーや複合施設のような大規模な警備を効率的に行うニーズにも対応していく考えだ。