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建設・セメント/省人化・脱炭素へ動く
建設・セメント業界は現在、国土強靱(きょうじん)化に向けたインフラ再整備や民間投資の回復などを受け旺盛な建設需要に沸いている。ただ、建設業界は慢性的な担い手不足に直面。2024年4月には時間外労働の上限規制適用も迫り、生産性の向上が求められる。一方のセメント業界も、生産工程で生じる二酸化炭素(CO2)を回収・再利用する技術開発が急務だ。
建設業界
自動トンネル吹き付け
鹿島は山岳トンネルのコンクリート吹き付け作業で、独自開発した「自動吹付けシステム」を適用し効果を確認した。凹凸がある岩盤面で用い、仕上がり面に対しプラスマイナス20ミリメートルの精度で平滑に施工する技術を確立した。自動化施工システム「クワッドアクセルforトンネル」の一つで、湧水などがありコンクリートが付きにくい部位への対応も進める。
大林組は橋梁の上部工架設工事で、飛行ロボット(ドローン)で建設資材を運ぶ検証を始めた。SkyDrive(愛知県豊田市)が開発した自動・自律飛行可能なドローン「SkyLift」を使い、最大20キログラムの資材を約100メートル離れた桁上に運搬。無着陸で荷下ろしする。山間部や急傾斜地、十分なヤードを確保できない現場での活用を目指す。
掘削の過不足、画像で投影
清水建設は山岳トンネル工事の生産性向上に向け、発破後に掘削の過不足状況をプロジェクションマッピングで可視化するシステムを開発し実工事に適用した。作業員が危険な切羽(掘削面)直下に立ち入り、状況を確認する従来の作業を不要にする。掘削が必要な場所や掘削量を正確に把握できるため、作業効率・精度の大幅な向上が見込める。
大成建設はニシオティーアンドエム(大阪府高槻市)と共同で、山岳トンネル工事用に4ブーム式の装薬台車を仕上げ実工事に適用した。先端のバスケットには、切羽の凹凸に追従するヘッドガードを搭載。落石から作業員を保護し、発破掘削における装薬作業の安全性向上を実現した。バスケットに乗ったまま作業できるため、生産効率も高まる。
竹中工務店はセンシンロボティクス(東京都品川区)と共同で、複数の施工ロボットを一括で遠隔操作・管理する「UGV遠隔操作ソリューション」を完成した。パソコンなどの遠隔操作画面を見ながら、ゲームコントローラーで操作する。施工ロボットの導入が進む中、協力会社の作業員がロボットごとに異なる操作方法を習得する無駄を省く。
セメント業界
生コンにCO2を注入し固定化
太平洋セメントは2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向け、生コンクリートにCO2を固定化する技術を確立した。必要な流動性や強度発現性を維持したまま、セメント1トン当たり約23キログラムのCO2を固定できる。プレキャスト部材や道路舗装で実績を積み上げ、生コンへの展開も視野に入れる。
生コンはセメント需要の大半を占める。今回の技術開発では、生コンにCO2を注入する方法や練り混ぜ方法を最適化。コンクリートに求められる高い品質と、CO2固定量の最大化を両立した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業として開発したもので、セメント1トン当たりのCO2固定量は当初目標の10キログラムを上回る成果だ。
同技術ではまず、水とセメントを混ぜたセメントスラリー(粘土状の流動体)にCO2を注入。CO2はセメントスラリー内部の水酸化カルシウムと反応し、石灰石の主成分である炭酸カルシウムが生成される。この結果、CO2はセメントスラリーに閉じ込められる格好となる。CO2の固定化率は90%以上と高く、大気中に逸散する余剰なCO2が少ないのも特徴だ。
その上で、この炭酸カルシウムを含んだ炭酸化スラリーをセメントと砂利や砂などの骨材、混和剤、水などとコンクリートミキサーに投入。これらを一定の時間練り混ぜることで、CO2を固定化した生コンを仕上げることができる。同社ではこの生コンを打設して消波ブロックやガードレールの土台も試作。さらに、自社工場の路面舗装に用いる試験施工も済ませた。
同社は建設資材を安定供給する“動脈”としてだけでなく、産業廃棄物や副産物、災害回避物など年間2600万トン以上を有効活用する“静脈”にあたる機能も訴求。併せて、大量のCO2を排出するセメントメーカーだからこそカーボンニュートラル関連技術の早期確立・実装を加速する。周辺環境の変化をビジネスチャンスと受け止め、持続的な発展につなげる。