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電子部品/EV向けが成長けん引
電子部品需要のけん引役が変わり始めた。10年以上続いてきたスマートフォン向けの勢いが鈍化し、代わって電気自動車(EV)向けの存在感が増している。世界的なインフレなどで消費者のスマホ購買意欲が後退。一方、エネルギーコストの上昇などポストコロナ時代の新潮流に第5世代通信(5G)の普及も加わり、EVなど省エネ関連の市場が拡大している。スマホ販売と軌を一にして成長してきた日本の電子部品メーカーには正念場だが、これまで磨いた環境負荷軽減技術を強みに、さらなる飛躍につなげるチャンスでもある。
TDK/MLCC、搭載数3倍に
「2030年にはxEV(電動車)がクルマ全体の半分以上を占めると見ている。当社もその波に乗りたい」。TDKの齋藤昇社長はEVを含むxEV市場の成長性に期待を示す。同社の22年4-12月期連結営業利益は前年同期比で33・5%増の1886億円。増益の理由の一つが、xEV向けの受動部品やセンサーの販売拡大だ。
コロナ禍の打撃から立ち直るため、世界各国は公共投資の主軸をモビリティーの脱炭素化など、持続可能性のあるプロジェクトに置く方針を表明。購入時の免税措置など政策でEV普及を後押しした。ガソリン車を含む自動車全体の22年の世界販売台数が前年比で伸び悩む中、xEVは同約55%拡大したとの統計もある。23年も「xEVは22年からさらに2-3割伸びるだろう」(齋藤社長)。
xEVでは5G普及を背景に、ITとの一体化も進む。半導体やセンサーの搭載率が高まり、これらの安定動作に欠かせない積層セラミックコンデンサー(MLCC)のxEV1台当たりの搭載数はガソリン車の約3倍に増えるとされる。
齋藤社長は「xEV向けに幅広い製品のラインアップを持っていることがTDKの強み」と話す。例えばバッテリーからの電気を安定させるフィルムコンデンサーと、高電圧に特化したMLCCをともに供給できる点が相乗効果を生み、両製品ともxEV向けの販売が増えている。現在同社が実行中の中期経営計画ではMLCCなどを含む受動部品事業の営業利益率目標を15%に置いたが、22年4-12月期は約18%とこれを上回った。
センサーを手がけるセンサ応用製品事業の営業利益率も22年4-12月期、12%と2ケタに乗せた。「TDKのセンサーはスマホ向けと見られがちだが、自動車向けがすでに3割程度ある。EV向けに温度センサーや圧力センサーの需要が増えているほか、微小電気機械システム(MEMS)センサーも先進運転支援システム(ADAS)など用途は幅広い。今後、センサーを柱の事業の一つに育てる」(同)。
成長狙い増産投資加速
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TDKの車載向け縦横反転型0510サイズのMLCC「CGAE」シリーズ
22年はインフレ加速や消費者の購買意欲減退で、中華系スマホの販売が急減。目新しい機能が減り、スマホの爆発的な成長が望みにくくなっていることは以前から指摘されていたが、想定以上の落ち込みを受け、TDKも世界シェア首位(推定約40%)のスマホ向け小型リチウムイオン電池(LiB)などで苦戦を強いられた。それでも全社で増益を確保したことについて、野村証券の秋月学アナリストは「xEV用受動部品などでTDKの競争力が高く、マクロ景気の減速下でも収益性を改善できることが確認できた」と指摘する。
成長を捉えるための投資も行う。22年5月、岩手県にある北上工場内でMLCCの新たな製造棟を建設すると発表した。単一製品では同社として過去最大の約500億円を投じ、全社のMLCC生産能力を約2倍に高める。「その次の投資ももちろん考えている。需要を可能な限り正確に見定め、適切に手を打ちたい」(齋藤社長)。
TDKはスマホメーカーとのビジネスを通じ、変換効率を高めて熱の発生を抑える技術や、部品を小型化する技術を磨いてきた。xEVでは回路の高電圧化や使用環境の高温化への対応が必須な一方、省電力や車体軽量化の観点から、これまで培った高効率化や小型化技術も強みになる。技術を生かし、xEVの安全性を高める部品で成長を図る。
京セラ/車載攻略、米子会社カギ
京セラも電子部品事業での注力市場として車載市場を挙げる。カギを握るのは、2020年に約1000億円を投じて完全子会社化した、電子部品を手がける米国の京セラAVXコンポーネンツ(KAVX)だ。欧米を中心とした車載市場に強く、京セラの同事業での売上高の半分強を占める。グループ一丸の販売戦略と積極投資で事業拡大を目指す。
「スマートフォン向けが多い京セラの電子部品は減少する見込みだが、自動車関連向けが中心となるKAVXでは大きな減少はないだろう」。谷本秀夫京セラ社長は電子部品事業の23年3月期業績予想を、そう説明した。足元では中国を中心にスマホ市場が悪化。スマホ向け部品需要が減る中、車載向けでの需要拡大が売上高を下支えする。
電子部品は従来の情報通信向けに加えて、車載や産業機器といった分野でも搭載量が増え、需要拡大が見込まれている。京セラも29年3月期の電子部品事業売上高を23年3月期見込み比約6割増の6000億円に高める計画だ。売り上げ面で特に成長が期待できる車載市場では、29年3月期の成長率目標を23年3月期見込み比約2・2倍に設定する。
同市場攻略で重要な役割を持つのがKAVX。同社の電子部品の欧州売上高の半分は車載関連。アクセルペダルや温度センサーを車両メーカーと直接取引しており、設計の初期段階から参入できるのが特徴だ。この販路を生かし、グループが手がける他の電子部品を車載市場へ拡販している。
旺盛な需要増に対応するため、積極的な投資も進める。22年12月には、新工場を建設するため約22億円を投じて長崎県諫早市で用地を取得すると発表。京セラ初の長崎県での生産拠点整備で、生産品は半導体関連部品やコンデンサーなどの電子部品を中心に検討し、26年の操業開始を目指している。