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さいたま市 東日本の中枢へ 人口増加・転入超過で全国1位
経済や産業の振興策について清水勇人市長は「引き続き市内企業へのきめ細やかな支援に取り組む」と話すとともに、さいたま商工会議所の池田一義会頭は「自己変革力と価格是正を後押しする」と語り、地域経済の活性化に向けて積極的に取り組む考えを示した。
「上質な生活都市」へ強み生かす
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さいたま市長 清水 勇人 氏
―2023年度の当初予算で産業分野の施策や支援策は。
「これまで市の制度融資による資金繰り支援、原油価格や物価高騰への対策のための設備更新の補助金などの企業支援のほか、プレミアム付き商品券などによる消費喚起を含めた景気対策に取り組んできた。新年度も積極的な支援を行う。新規施策ではデジタル地域通貨の導入に向けて調査を始める。経済の活性化、行政サービスの向上やコミュニティーの醸成につなげるのが狙いで、調査が順調に進めば、遅くとも24年度にはデジタル地域通貨の活用を始めたい」
―継続事業では。
「中小企業の生産性や付加価値の向上のための成長支援、企業の人材育成、産学連携によるイノベーション、リーディングエッジ企業など技術力のある企業のオーダーメード型応援など、市内企業へのきめ細やかな支援にも引き続き取り組む」
―さいたま市は転入超過数が全国1位ですが要因は。
「東日本の玄関口という地理的優位性や、都市でも自然が残っている良さ、健康やスポーツ、環境、教育の分野の先進的取り組みもある。0歳から14歳の転入超過数は全国1位が8年続いている。統計でも20代から30代の転入超過が多く若い世代にも選ばれている。市民意識調査では『住みやすい』が87・2%、『住み続けたい』が87・1%と過去最高の数値になった」
―市の施策も1位に貢献していますか。
「人口減少局面を迎える30年頃までを『運命の10年』として、この期間に持続可能な都市を構築する取り組みを進めている。『東日本の中枢都市』や『上質な生活都市』を目標に掲げ、まず強みを徹底的に生かす。主な強みとは交通の要衝であり利便性が高く災害にも強いこと。一方で、課題を克服する取り組みも進めている。脱炭素の取り組みでは国の先行地域に指定され、環境大臣や米国の環境保護庁長官も視察した。クアラルンプール(マレーシア)の脱炭素の街づくりにも協力している。教育の充実により英検3級相当の英語力を持つ中学3年生の割合は3回連続で全国トップとなった。児童生徒の自己肯定感も高い」
―人口減少局面に向けた今後の施策は。
「人口減少をできるだけ先に延ばすことと、高齢化のスピードを緩やかにすることを基本に取り組む。若い世代に引き続き来てもらい企業が進出しやすい環境を作る。人口が減っても一定の歳入を確保できる街づくりを進める。大宮駅グランドセントラルステーション化構想の推進や市内の再開発事業など都市基盤を引き続き整備する。また妊娠や出産から子育てまで切れ目なく支える活動の充実により、人口の自然増につながる取り組みを継続する」
―市庁舎をさいたま新都心に移転する計画の進捗は。
「基本構想を基に具体的な方向性を示す基本計画の策定を進めている。基本構想で示した31年度の移転を目指して着実に事業を進めたい。並行して移転後の現庁舎地の利活用の検討を進めていく」
自己改革力と価格是正を後押し
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さいたま商工会議所会頭 池田 一義 氏
―さいたま市内企業の景況感は。
「昨年後半からウィズコロナが浸透して落ち着いてきている印象がある。ウィズコロナからアフターコロナの状態にどう変えていくかが求められる。コロナ以前と全く同じ状態に戻ることはない、経験から学んだことを生かしていけば良い。経済活動も正常化に向かって良い方向に行くと期待している。一方でウクライナ情勢は今後の動向が予測できない。長期化すると原材料価格や資源価格の高騰がいつまで続くかという心配も出てくる。特に中小企業は原材料価格やエネルギー価格の高騰でコストプッシュ型のインフレにさらされている。これをどう解決していくかは簡単ではない」
―企業はどう対応すべきでしょうか。
「方法は二つある。一つは自己変革力。自らの事業が今後このままやっていけるかを見直す時期に来ている。再構築するなら今がチャンスとも言える。もう一つは価格転嫁。従来から構造的な問題として中小企業は大企業のしわ寄せを受けてきた。政府も地方公共団体も問題意識を持って価格是正をしようという機運が高まっている。価格転嫁をきちっとして賃金に振り向けていくことが大事だと思う」
―商工会議所の新年度の取り組みは。
「自己変革力と価格是正に関連することが重点事業になる。適正な取引価格の実現を発注企業が表明する『パートナーシップ構築宣言』活動に取り組んでいるが、宣言の実効性を高めていくことが大切。宣言はしているが現場レベルでの価格交渉が進んでいないことも多い。宣言の実効性を後押ししていくことが重要だ」
―埼玉県では価格転嫁を円滑に進めるため、「強い経済の構築に向けた埼玉県戦略会議」を構成する12団体が全国初の連携協定を結びました。
「日本商工会議所からも『埼玉県の取り組みを全国に拡大すべきだ』と後押ししてもらった。その結果、北海道や長野県でも同様の取り組みが進んでいると聞いている」
―さいたま商工会議所は、埼玉県事業承継・引継ぎ支援センターも運営しています。
「団塊の世代の経営者が交代期に入っていることもあり、相談件数は増えている。オープンネームマッチングという方法で後継者探しの選択肢を広げることができる。また中小企業診断士協会と連携してM&A(合併&買収)後の統合効果を最大化するPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)にも力を入れている」
―今後の産業振興に向けて、国や県に対して要望はありますか。
「事業再構築では廃業も視野に入れた取り組みが重要だ。廃業が結果として良い選択肢になる場合もある。新しい小さなイノベーションをたくさん起こすための仕掛けや支援も大切で政策をお願いしたい。さいたま新都心を若い起業家が集える場所として活用できればいい。新都心には霞が関の省庁が集まっている。スタートアップの後押しをする拠点として開放してもらうと、埼玉の経済活性化につながると思う」