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環境・リサイクル/大胆な投資・企業結集に活路
世界的潮流に素早く対応
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TBMが22年11月に稼働させた国内最大級のプラスチックリサイクル工場(神奈川県横須賀市)
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)、サーキュラーエコノミー(循環経済)、ネイチャーポジティブが環境の三大テーマとなった。どれも世界的な潮流となっており、素早い対応と大胆な投資でビジネスチャンスの獲得が求められる。
脱炭素/車34兆円・再生エネ20兆円
政府は2月、脱炭素達成への工程表となる「グリーン・トランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。今後10年で官民合計150兆円の巨額投資が必要とし、業界別の内訳を提示した。自動車の34兆円が最大。再生可能エネルギーの20兆円、住宅・建築物の14兆円、デジタルの12兆円が続いた。
工程表には業界別の目標や戦略が示されており、サプライチェーン(供給網)に属する中小企業にも脱炭素への道標となる。例えば蓄電池産業の7兆円の内訳は製造拠点が4兆円、研究開発が3兆円。27年中までに1億3000万キロワット時分の投資を決定し、30年には1億5000万キロワット時の製造基盤を構築する。また、20年代に高水準のリサイクル技術も確立することも明記した。
脱炭素への移行で洋上風力発電も巨大産業となる可能性を秘める。政府は30年までに1000万キロワット、40年までに最大4500万キロワットの導入目標を設定した。風車1基を1万キロワットとすると30年までに年100基以上のペースで製造する必要がある。また1基に数万点の部品が使われている。国は国内調達比率を60%と定めており、関連企業への波及効果が大きい。
戸田建設を中心とする洋上風力推進組織「オフショアウィンドファーム事業推進協会」は政府よりも意欲的な「50年10億キロワット」を提言している。実現には30年以降、年5000基の製造が必要。50カ所の生産拠点があっても1カ所で年100基を生産するため、全国各地で産業振興が期待できる。
多くの企業の参入が欠かせない。戸田建設の今井雅則会長は「造船も含め、要素技術を持つ日本企業が多い。そうした企業が洋上風力産業に参入してほしい。地域の建設業者なども地産地消型で携われば、地域再生にもなる」と語る。
多くの企業を呼び込もうと戸田建設と大阪大学大学院工学研究科は3月、「洋上風車システムインテグレーション共同研究講座」を開設する。阪大大学院の飯島一博教授は「日本企業は風車製造から撤退したが、第一線で働いていた人材が残っており、国内に機械メーカーも集積している」と企業の結集を期待する。
循環経済/市場成長、調達リスク減
経済安全保障への関心とともに循環経済への移行が喫緊の課題となっている。ウクライナ危機や米中対立などの国際情勢によって海外からの資源調達が途絶えるリスクが顕在化したためだ。国内で資源を繰り返し使えば海外依存を低減でき、将来のリスクを回避できる。
日本では環境面から循環経済が提唱されてきたが、欧州連合(EU)は戦略的に推進している。その代表が、24年から運用予定の蓄電池規制だ。携帯用や輸送用に回収率の目標を設け、メーカーに達成を求める。電気自動車(EV)や再生エネの普及には蓄電池は欠かせない。その蓄電池の材料をEU域外からの輸入に依存すると、調達リスクが生じる。域内で使用済みとなった蓄電池から材料を回収し、再生利用すれば域内での調達比率が高まって調達リスクを回避できる。企業には一時的な負担であっても、域内企業の成長やリサイクル産業の育成にもつながるため、経済戦略と結び付いた循環経済だ。
日本政府も22年、循環経済工程案をまとめた。30年までにプラスチックの回収量を倍増し、電子機器に含まれる金属リサイクル原料の処理量も倍増させる。30年には循環経済関連ビジネスを現状比1・6倍の80兆円への成長を目指す。
ネイチャーポジティブ/「回復」ビジネス創出
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ネイチャーポジティブは環境テーマに浮上し、工場の緑地管理にも関心が高まっている(パナソニック草津工場の緑地)
新たにネイチャーポジティブが浮上してきた。22年末、カナダで開催された国連の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で、動植物や自然を守る世界目標が合意された。その中で30年までに自然を減少から回復に転じさせるビジョンが盛り込まれた。これがネイチャーポジティブだ。
15年に気候変動対策の国際ルール「パリ協定」が合意されると、世界のビジネスは脱炭素が基軸となった。ネイチャーポジティブも経済活動の指針となる可能性がある。これまで企業は自然を破壊しないように「配慮」した事業活動が求められたが、今後は事業による「回復」が要請される。
政財界のリーダーが集う「世界経済フォーラム」はネイチャーポジティブに貢献する68のビジネスを提示している。林業や木材利用、下水再利用といった自然資源の活用や環境保全のほか、農業の生産性向上や養殖、代替肉などの食品関連も入る。また、再生可能エネルギーや自動車・家電リサイクルなど、脱炭素や循環経済にも共通の事業も含まれる。さらに世界経済フォーラムはネイチャーポジティブによって30年までに10兆ドルの市場創出が可能とした。
すでに国内でもビジネス獲得への動きが出ている。九州電力や西部ガス、ソフトバンク、日創プロニティなど33社は22年12月、「ナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム」を設立した。地域の生物多様性向上に取り組んで二酸化炭素(CO2)吸収量を増加させ、その成果を取引可能なクレジットにする。コンソーシアムはクレジットの販売で得た利益を生物多様性保全に充てることで、ネイチャーポジティブ型ビジネスを構築する。
脱炭素や循環経済は技術革新や新規事業とつながるため、企業はビジネスチャンスと捉えやすい。ネイチャーポジティブも利益と結びつけるビジネスモデルを開発できれば、新たな市場を獲得できる。