-
業種・地域から探す
クリーンエネルギー/水素・アンモニアで発電
モノづくりに再生エネルギー
水素とアンモニアは燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出しないため、発電などの脱炭素に貢献するクリーンエネルギーとして期待されている。重工業大手は関連機器の開発や、発電など利用先との実証を進める。素材大手は水素の製造装置の開発に取り組む。各業界で実用化に向けた動きが着々と進む。
川重/水素供給網を構築
重工大手では、川崎重工業が水素を次世代の中核事業に位置付ける。水素の製造から利用までのサプライチェーン(供給網)を構築し、関連機器を実用化する戦略だ。2030年度には売上高4000億円、50年には2兆円を目指している。橋本康彦社長は「水素エンジンや水素バイクなど水素全体の需要を集計している」と2兆円のイメージを説く。
豪州で褐炭を原料に水素を製造し、液化水素運搬船で日本に運び、発電などに利用する。タンク容積16万立方メートルの大型船を20年代半ばに実用化する計画だ。
利用先との協業も進む。22年4月に欧エアバスと協業。水素燃料の航空機実現に向け、製造から空港への輸送、航空機への補給までのサプライチェーン構築に向け、ロードマップを作成する。22年12月には関西電力と協業した。30年をめどに、関電の兵庫県姫路市の天然ガス火力発電所での水素混焼の事業化を目指す。
IHI/アンモニア混焼推進
IHIはアンモニアを中核に位置づける。アンモニアは水素が原料のため、水素のエネルギー利用の一形態でもある。石炭火力発電所への混焼の事業化を目指している。発電用ボイラ内部のバーナーを改造し、混焼できるようにする。
JERAと組み、同社の碧南火力発電所(愛知県碧南市)4号機(出力100万キロワット)で23年度に20%を混焼する実証を始める。大型の石炭火力での大規模混焼は世界初という。実証についてIHIの井手博社長は「一丁目一番地だ。実際に目に見える形で成果を出したい」と重要性を強調する。
実証での成果を材料に、東南アジアの石炭火力に混焼を広げる戦略だ。既にインドネシアやマレーシア、インドなどで、現地企業と混焼などの事業化を検討している。経済成長による電力需要増で石炭火力に頼らざるを得ない各国に、現実的な手段を提供する。
外部と連携した機器開発も進める。米ゼネラル・エレクトリック(GE)と1月、アンモニアのみを燃料にする大型ガスタービンを共同開発することで合意した。30年までにGEの大型ガスタービンをアンモニア専焼に改造する技術を開発する。日本やアジアでGE製品を採用する石炭火力のアンモニア専焼への改造や、アンモニア火力の新設需要の開拓を目指す。
三菱重工業は水素、アンモニアどちらも取り組む。水素が燃料のガスタービンの25年の商用化を目指す。大型では30%の混焼、中小型では専焼を計画する。ガスタービンを製造する高砂製作所(兵庫県高砂市)では、23年度に水素製造から発電までの実証設備を稼働する。自前で製造した水素を燃焼してガスタービンを動かし、発電するという一貫プロセスを実証する。アンモニアでは、JERAと石炭火力発電所への混焼を計画する。
旭化成/東レ グリーン水素製造に磨き
素材業界も、水素を新たな事業の柱にしようと取り組みを急ぐ。
旭化成は、25年度までに水を電気分解して水素を製造する「アルカリ型水電解技術」の事業化を目指す。再生可能エネルギー由来の電力を使えば、環境負荷の低い“グリーン水素”を製造できる。同社の次の成長をけん引する10事業「GG10」の中でも、特に期待が大きい。
同社のアルカリ型水電解のもととなったのは、食塩水をカセイソーダと塩素に電気分解する技術。40年以上の歴史があり、同社がグローバルに展開している。水素でも世界をリードしたい考えだ。
福島とドイツで実施している電解槽1基での実証実験に加え、24年には川崎で社会実装を見据えて複数の電解槽で構成するパイロット設備を稼働させる。グリーン水素の普及期には、消費電力10メガワットの電解槽モジュールを複数連結させた大型水素設備が必要になるとみて、システム開発を加速する。
東レもグリーン水素製造技術に力を入れている。同社が手がけるのは、旭化成のアルカリ型水電解とは異なる「固体高分子(PEM)型水電解技術」だ。一般的にアルカリ型は大規模な水素製造に向き、PEM型は再生可能エネ由来の発電量の変動に追随しやすくアルカリ型より小規模向きと言われてきた。だが、東レは独シーメンス・エナジーとタッグを組み、東レ独自の炭化水素系電解質膜とシーメンスの装置を組み合わせ、大型装置の事業化を推進する。
このほかにも環境負荷の低い水素には、住友化学やエア・ウォーターなどが製造技術の開発に取り組む“ターコイズ水素”などがある。メタンを熱分解して水素と固体の炭素を生産する技術で、温室効果ガスのメタンを固定化する方法としても期待される。
一方、産業ガス大手の日本酸素ホールディングス(HD)は、水素などを大量供給するHyCO(ハイコ)事業を拡大している。同事業は、天然ガスなどから水蒸気改質装置で水素や一酸化炭素を分離し、パイプラインで供給する。19年に独リンデから約456億円で同事業を買収した。
近年、相次いで受注を獲得しており、23年度下期から米バーテックス・エナジーへ再生可能燃料由来の水素の供給を始める。アラバマ州のバーテックスの製油所に新設する水素製造設備は、天然ガスだけでなく、再生可能ディーゼルの副生物からも水素を取り出せる。水素製造能力は日産3000万立方フィート以上。インドでは、インド政府系公社ヌマリガル製油所(アッサム州)の拡張プロジェクト向けに20年間の長期供給契約を結んだ。