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建設機械/電動建機開発急ピッチ
建設機械の電動化研究が進んでいる。コマツや米キャタピラーはリチウムイオン電池(LiB)を搭載した20トン級の電動ショベルを開発。日立建機も13トンの電動ショベルを開発済みだ。コベルコ建機や住友建機も、それぞれ電動ショベルを研究中で、商品化の時機をうかがう。電動ショベルが市場へ本格普及するのはまだまだ先と見られるが、環境保護やカーボン・ニュートラル達成手段の追い風もあり、各社とも研究開発を推進中だ。
電池技術が進歩 馬力不足を解消
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脱炭素には建設の電動化が不可欠(コマツの20トン電動ショベル)
電動ショベルの、ディーゼルエンジン式ショベルと比べた利点は排ガス発生がゼロであること。欠点として価格が約3―4倍と高いことや、充電してからの稼働時間不足やパワー不足問題が挙げられる。ただ、これらの欠点は、電池や充電装置の技術進歩で相当カバーされる。電池の価格が半分になり、充電スタンドも短い時間でより大量の電力を補給できるようになれば、利用者にとって購入のハードルは引き下げられる。
実際、電池性能やコストダウンは年々進んでおり、欧州では電動ショベルと従来ショベルの価格差を行政側が補助金で穴埋めし、それによって普及促進を図る事例も出始めている。
購入企業にとって電動ショベルを持つことは「二酸化炭素(CO2)排出量削減や地球環境問題解決に真剣に取り組んでいます」という対外メッセージになる。電動ショベル販売を始めているコマツや日立建機は「まず1台を試験的に購入して、次は複数台をレンタル注文するユーザーが多い」と明かす。
小型機から普及進む
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超大型ショベルとダンプトラック(日立建機提供)
電動ショベルは一般乗用車や軽自動車の電気自動車(EV)と比べ、必要なパワーがケタ違いに大きいという問題がある。乗用車のLiBを建機には使えず、使うにしても個数が膨大になり、ショベルに載せるのは不可能だ。ショベルは山奥の崖やぬかるみなど、足場の悪い場所で稼働することが多いため、その配慮も必要だ。
車体が軽量・小型のマイクロショベルやミニショベルの電動化は、この点で導入ハードルが低い。建機大手各社の社長はそろって「電動ショベルの普及は小さい方が先になる」と見通す。コマツは自動車大手のホンダと共同で、電動マイクロミニショベル「PC01」を開発している。この電池はカートリッジ式で、使用中に残存容量が小さくなったら直ちに新しい電池パックに交換できる仕組みだ。
電動ショベルの排ガスを出さないこと以外の利点は、発生騒音が小さいことだ。静音であるため、都市部の夜間工事や住宅、学校付近の工事でも利用がしやすい。操作時の振動も少なく、オペレーターの疲労や身体への負担が小さいとされる。このことは人手不足が言われる建設や物流現場での導入に、大きな意味を持つ。
鉱山現場向けの超大型油圧ショベルやダンプトラックでは、LiB以外に電線(トロリー)による電力供給もある。必要パワーが建設現場のショベルよりさらに大きいため、LiBだけではまかないきれないためだ。
日立建機は欧重電大手ABBと電動ダンプトラック開発を進めており、24年の実証開始を目指す。トロリー式の併用でLiBの搭載個数やコストを減らせるほか、トロリーからの給電で充電スタンドで充電する必要がなく、24時間稼働を続けられるメリットがある。日立建機は「ダンプトラックは鉱山ショベルより現場で稼働している台数が多く、その分、売り上げ増加も期待できる」と語る。
鉱山ショベルやダンプトラックは、ユーザーの鉱山大手がカーボンニュートラルに積極的に取り組んでいる追い風もある。鉱山現場でショベルやダンプが排出するガスやCO2量は膨大なため、削減には電動化が不可欠。コマツは英豪鉱山大手のリオ・ティントやBHPなど国際資源メジャーと、開発促進で連携枠組みを設立した。資源メジャーの鉱山で電動ショベルやダンプを実際に走らせて不具合点などを検証し、早期開発へつなげる。
海外勢が先行 国の支援要望
日本建設機械工業会は国内市場の電動建機の普及促進に向けて、支援策など特段の配慮を求める要望書を、国土交通省や経済産業省に提出した。建機市場で電動化機械の占める比率はまだ低く、価格面のハードルも高い一方、海外では欧州を中心に自動車の電動化が急速に進んでおり、建機にもいずれ波が及ぶ可能性が高い。欧米や中国で電動化が本格普及し始めた時点で日本が“周回遅れ”になってしまわないように、政策でも後押しが求められる。