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進化する自動化/産ロボ、生産現場の主役
生産現場の自動化が急速に進んでいる。人手不足対策が事業継続を左右する喫緊の経営課題となっているほか、生産性向上による競争力向上も避けられない。自動化を推進するキーコンポーネントとして注目されるのが進化の著しいロボット技術。ロボティクスによる工場自動化(FA)から目が離せない。
スリムなアーム 重量電池を搬送
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ファナックはEV生産の本格化を見越し、大型ロボット「M-1000iA」を投入している
産業用ロボットの新たな用途として注目されるのが、世界で投資が加速する電気自動車(EV)関連領域。ファナックはEV生産の本格化を見越し大型ロボット「M―1000iA」を投入している。
M―1000iAの特徴の一つが、大型ロボットで「シリアルリンク機構」を採用したことだ。シリアルリンク機構は小型・中型ロボットで使用されることが多い。アームの可動域が広いゆえに周囲への干渉が少なく自由自在に対象加工物(ワーク)を搬送できるメリットがある。
EVの生産現場では車体内部に数百キログラムのバッテリーを組み付けるため、本体はスリムでありながらも広範囲に重量物を搬送できる大型ロボットが求められている。
M―1000iAは独自の関節機構によってコンパクトでありながら、ロボット上方や後方にアームを移動可能。ワークを上方に持ち上げ旋回できるため干渉範囲を約5割削減している。
スリムさと力強さの相反する要素を両立したことに加え、重量物を0・1ミリメートル単位で正確に位置決めできる“繊細さ”も備える。機能面に加え、目を引くデザイン性も相まって引き合いは好調。これまで手作業がメーンだったバッテリーの組み付け作業などで有効だ。
加工・検査 広がる用途
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川重は複雑形状部品を高速・定ピッチで撮影し外観検査を自動化するソリューションを開発した
「自動化ニーズでは決まり文句のようにロボットというキーワードが出てくる。人が働く領域がある限り、もう一つのポテンシャルとして自動化の利用価値や要求価値がある。これらに応えることが安川電機のDNAである『技術立社』の一つの示し方だ」―。2023年3月に社長に就いた安川電機の小川昌寛社長は意気込む。
安川電機では23年度に新型自律ロボット「MOTOMAN―NEXT(モートマンネクスト)」を投入する方針だ。単なるモートマンシリーズの延長線や後継機ではないことを参考出展した展示会では訴求している。
既に市場に存在する自動機やロボットはあらかじめ必要な作業が決められ変更が少ない大量生産型現場には向いている。ただ少量多品種や、需供給のバランスで生産体制を頻繁に変える現場は往々にしてある。モートマンネクストは“自律”をキーワードにプログラミング式ロボットでは入りづらかった変種・変量や属人的な判断が介在する現場での活躍が期待される。
小川社長は「多様性と量産化のマッチングはこれまでの方法だと難しい。モノや環境に向き合って情報化し、その作業を自分でこなすコンセプトを体現できる製品ができた」と自信をのぞかせる。
川崎重工業は22年8月にデクシス(千葉県船橋市)と連携し、汎用ロボットを活用した外観検査システムを発売した。ワーク曲面に沿った輝線を自動追従し帯状撮像するデクシスの技術に、川重の「高速パルス出力機能」により0・1ミリメートル間隔でロボットが撮影の指示を出す機能を組み合わせている。通常、ロボットの動作に応じて加減速が生じるため撮影画像がブレ、明瞭でないケースは多い。ただ両社の独自技術を用いて、高速・定ピッチで撮影できるためワーク表面の傷や汚れを高精度で検知できる。
検査装置の市場規模は20年時点で約2500億円に上り、年10%程度で安定的に成長する予測もある。一方、曲面がある複雑形状部品などの検査自動化は難しく、熟練工による目視検査に依存している。ただ検査のバラつき防止やトレーサビリティー(履歴管理)といったニーズは強い。川重は複雑形状製品のロボット検査というブルーオーシャンの新市場を開拓する構えだ。
不二越は電機・電子分野をはじめとする生産現場の生産性向上を実現する高速・高性能ロボット「MZ Fシリーズ」を22年3月に投入。ラインアップの3機種のうち「MZ07F」では内部構造の最適化によってタクトタイムを従来品比43%短縮する機能向上にも成功した。またMZ Fシリーズに対応した世界最小クラスのロボット制御装置「CFDq」も販売している。
人手を代替、繊細さ・パワー両立
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住重が開発した新型ロボット機構は大型構造物の曲面上での溶接自動化などが期待される
少子高齢化にあって人手不足の深刻化は避けられないメガトレンドだ。これまで人が担っていた仕事をロボットで代替し、人はより高付加価値の仕事にシフトする流れが見込まれる。その場合、多くは既存建屋を利用し、人がいたスペースにロボットを導入するパターンが多い。ロボット本体や制御装置が大きいと、大規模なレイアウト変更が必要となるが、不二越のスリムな形状を保ったままタクトタイムを向上したロボットであれば導入がしやすい。
住友重機械工業は船舶やプラント、風力発電設備など大型の鉄鋼構造物の曲面を吸着して走行できる新型ロボット機構を開発した。磁力によって構造物表面などに吸着・移動する従来のロボットは主に平面上での使用に限定されており、自動化が困難で人手に頼らざるを得ない現場作業も多かった。新たなロボット機構の開発で作業者の安全を向上したよりスマートな重工製造現場を実現していく考えだ。
回転可能な磁石を内蔵した中空の球状車輪を採用。曲面適応性が高く曲面の壁などさまざまな形状を走行できる。ロボットにはいろいろなツールを搭載可能で大型構造物などの溶接や切断加工、点検といった幅広い作業の自動化が期待されている。
世界的なインフレや海外では特に労働市場の流動性が顕著だ。こうしたトレンドを背景にロボット導入が加速する向きもあり、FAでのロボットの存在感は一段と高まる。