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SDGs/気候変動対策 取り組み進む
2016年にスタートした持続可能な開発目標(SDGs)は、30年のゴールに向けて折り返しに入った。国内では気候変動対策や資源循環、働き方の多様化が進展し、企業もさまざまな活動を始めた。一方で、ジェンダー平等(性別による差別解消)などで遅れが指摘されており、後半での巻き返しが求められる。
30年ゴールに向け 折り返し地点
SDGsの17の個別目標の中で、目標13(気候変動対策)は取り組みが進んだ課題の一つだ。日本の温室効果ガス(GHG)排出量は20年度まで7年連続で減少した。政府は20年、脱炭素達成時期を50年と明言し、21年には30年度までの排出削減目標を13年度比46%減に引き上げ、気候変動対策への機運が高まった。
目標13と密接な目標7(エネルギー対策)も進展した。国内の電源に占める再生可能エネルギー比率は21年度末に19・8%となり、10年前から10ポイント上昇した。だが、他の先進国と比べて再生エネのコストは高い。また、太陽光に導入が偏重し、海外で主流となった風力発電の普及が遅れている課題もある。
産業界でも目標13・7達成に向けた取り組みが進んだ。武田薬品工業は19年度に脱炭素を達成し、セイコーエプソンやサントリーホールディングスなどは電力全量の再生エネを完了。再生エネ100%を目指す中小企業の組織「再エネ100宣言REAction(アールイーアクション)」の参加は300社・団体を突破し、産業界で脱炭素が大きなうねりとなった。
目標9(持続可能な消費・生産)に関連し、プラスチックの無駄遣いがクローズアップされた。日本は議長国を務めた19年の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、50年までにプラゴミの海洋流出をゼロにする「大阪ブルーオーシャンビジョン」の採択を主導。国内では20年のレジ袋有料化に続き、22年にはスプーンやフォークなどの使い捨てプラの削減義務を課したプラスチック資源循環促進法を施行した。
プラスチック循環利用協会(東京都中央区)の調査によると、21年に国内で発生した廃プラは824万トン。政策の成果もあり、15年と比べ55万トン減った。だが、廃プラのうち製品材料に再生したマテリアルリサイクルは2割台にとどまり、半分は燃料代替として焼却されており、資源循環は道半ばだ。
企業もさまざまな製品の再利用に動きだした。萩原工業は使用済みブルーシートを回収して材料に再生し、ブルーシートを製造するマテリアルリサイクルを始めた。住宅メーカーのライフデザイン・カバヤ(岡山市北区)が賛同し、自社の工事で使用済みとなった製品を再生したブルーシートを購入する。
ソニーグループは段ボールを材料とした緩衝材を開発した。柔らかいが、力が加わっても形状を保つので発泡スチロール代替として使える。実用化できれば使用済み段ボールを有効活用してプラスチック資源を削減できる。
週休3日・勤務地自由選択―柔軟な働き方続々
目標8(働きがい)は、感染症の流行をきっかけとして一気に進んだ。リモートワークが定着し、在宅勤務も珍しくなくなったためだ。メタウォーターは19年、週休3日制を本格導入し、テレワークの回数制限を撤廃した。社員は育児やボランティア、私生活の時間が増えた。20年には1日の所定労働時間を30分短縮し、21年には飛行機通勤も導入した。さらに22年には勤務地の自由選択制も試行した。多様な働き方を認めた理由について藤井泉智夫取締役は「魅力を感じてもらわないと、就職の選択肢にならない」と語る。深刻な人手不足も目標8への取り組みを促進している。
また、目標11(地域活性化)にも働き方の多様化は好影響を与えた。都市部から地方への移住を選ぶ人が増加傾向にあることが背景にあり、企業が移住する事例も出ている。ITベンチャーのフラーは20年、千葉県柏市から新潟市中央区に本店を移し、創業者の渋谷修太会長も出身地の新潟県へUターンした。渋谷会長は「経営者仲間との距離が近く、飲みながら『どうしたら新潟が良くなる』と会話する。地域を良くしたい共通テーマはパワーであり、異業種ともつながれる」と地方での事業に手応えを語る。
「ジェンダー平等」遅れ 女性リーダー増加急務
目標5(ジェンダー平等)は、国際的に日本の遅れが指摘されている。政財界のリーダーの集う「世界経済フォーラム」が22年7月に公表したジェンダー・ギャップ(男女格差)指数で、日本は146カ国中116位だった。前年から4ランク上がったが、下位が定位置となっている。他国と比べて政治や企業でリーダーとなる女性が極端に少ないためだ。
専門家は、社外取締役への女性登用は増えたが、“生え抜き”の女性役員が少ないと指摘する。22年には男女賃金格差の開示が義務化された。社員の女性比率を高めるだけなく、女性も昇格や昇給できる環境でなければ賃金格差はなくならない。
住宅メーカーのエコワークス(福岡市中央区)は30年までに男女比率5対5を目指す。建設業界は「男の職場」のイメージがあるが、人手不足を考えると男性社員だけは業務が回らなくなる。「女性比率30%」を目標とする企業が多いが、同社は社員も管理職も「女性50%」を目標に掲げ環境整備を進めている。
不十分な取り組みもあるが、日本のSDGsは進んだ。500社以上が参加してSDGsを推進するグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの有馬利男代表理事は戦略性での日本企業の遅れを指摘する。30年に向けた後半、SDGsを利益創出につなげる戦略性も問われる。