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商社/DX加速 業務効率化
大手商社はデジタル変革(DX)で業務を効率化し、生産性アップに取り組む。人材育成にも積極的だ。DXによって商品軸による縦型組織に横串を刺すこともでき、組織改革にもつながる。すでに量子コンピューターなどを活用し、社会課題の解決に取り組む企業もあり、DXの先をにらむ。
伊藤忠 群戦略 案件別にチーム
伊藤忠商事が2022年3月期にグループ内で取り組んだDX案件は329件。22年9月期には465件に増え、23年3月期には500-600に増加する見通しだ。22年9月期を22年3月期と比べて最も増加数が多かった領域はビジネスモデル変革で、紙のデジタル化、データの利活用、インフラ改革と続く。
同社の強みはグループ企業や資本業提携先と手を組む群戦略でグループのDXを進めている点だ。群戦略により、戦略策定からマーケティング、データ分析、技術、BPO(業務委託)・運用とDXに必要な全ての領域をカバーする。さらに案件ごとに最適なチームで課題を解決できるのが特徴だ。
群戦略による案件数は増えている。グループ全体のDX案件数のうち、22年3月期に92件だったが、22年9月期には158件となり、23年3月期には200-250件に増える見込みだ。
その群戦略を強化するため、グローバルに企業と手を組む。80年代前半からシリコンバレーのスタートアップとの協業を始めており、90年にシリコンバレーに現地法人を開設し、有力ベンチャーキャピタル(VC)との連携を強化。90年代後半にはイスラエルでも同様の取り組みを開始している。
さらに、これらの資本業務提携するパートナー企業とも良好な関係を築く。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)や、ベルシステム24などの中核企業は子会社化するが、パートナー企業への出資比率は基本的に3-25%に抑え、相手の経営を尊重する。
グループ企業との連携を強化するため、人材交流も活発だ。情報通信部門の情報産業ビジネス部には本社に40人の社員がいるが、そのうち20人はグループ会社からの出向。情報・金融カンパニーの堀内真人情報・通信部門長代行は「エースを受け入れており、将来の役員候補を育成する」と説明。本社からグループ会社にも出向する。
ただ、同社にとって「DXは黒子だ」(堀内部門長代行)。DXの先にあるのはDXによる顧客体験(CX)の向上だ。具体的な取り組みも進む。味覚データと、販売時点情報管理(POS)に消費者を識別する情報をひも付けた(ID―POS)データを掛け合わせ、売れる傾向の味覚を定量化し、データドリブン(駆動型)商品の開発を実現するのが「FOODATA(フーデータ)」だ。22年、伊藤園の抹茶ラテとして商品化されている。
さらに世界最大の広告代理店グループである英WPPなどと共同出資し、DXでCXを向上するデザインを提供する「AKQA UKA」を設立。同社のいうデザインとは「製品だけではなく、ビジネスモデルやブランド、コミュニケーションなどのデザインも含まれる」(土川哲平代表取締役)。
CXを向上することで売り上げアップや企業価値向上に結び付ける。伊藤忠商事は市場や消費者の視点に立った製品やサービスを提供するマーケットイン戦略を進めてきた。DXでCX向上を実現し、マーケットイン戦略に磨きをかける。
人材育成/縦型組織に横串
三井物産は各社の量子コンピューターのパフォーマンスを最大化するミドルウエアと、量子コンピューターを開発する米英クオンティニュアムと手を組む。アジアで化学素材シミュレーションを化学メーカーに、暗号鍵の提供を金融機関や通信会社にそれぞれ提供を始めている。
住友商事は事業で量子コンピューターの活用を進める。人員配置を最適化するアプリケーションをグループ会社のベルメゾンロジスコ(岐阜県可児市)に導入した。1日のシフト表を作成する時間を従来比12分の1の15分間に短縮できたほか、生産性の向上や配置担当者の心的負担の軽減に成果があったことから、自社の物流施設への導入と外販を進める。
人員配置最適化については24年3月末までに工場や商業施設、介護など労働集約型産業をターゲットに事業を水平展開していく。人手不足の緩和に加え、従業員同士の相性やスキルなどを踏まえた職場づくりを実現できる働き方改革につながるシステムとして拡販する。
三菱商事は秋田・千葉県銚子地区で着床式洋上風力発電の事業者に選定され、千葉県と秋田県沖の国内3海域で28年9月以降に洋上風力発電事業を始める。エネルギー・トランスフォーメーション(EX)とDXの一体推進による地域創生を成長戦略に掲げる。
丸紅はデジタル人材を「デジタルを活用した成長戦略の構築・デジタル変革をリードできる人財」と定義。実務でデジタル技術を駆使し、DXを実現できる人材の育成を進める。実践型育成プログラム「丸紅デジタルチャレンジ(デジチャレ)」の修了者を中心にデジタル人材として認定している。
すでに23年に目標としていた200人を達成した。年内には目標を大幅に上回る見通しだ。現在は約4500人の本社従業員を対象としているが、今後は海外を含めたグループ会社にも拡大する。
デジチャレは受講者と同時に、デジタル技術で解決したい課題を募り、その課題解決をテーマに進められる。これにより理論だけではなく「手を動かして実践できる」(上杉理夫デジタル・イノベーション室長)デジタル技術が身に付く。
これまでに電子商取引(EC)サイトでのデータ収集・可視化や、保有船の配船最適化、電力需要の予測などのテーマを設定している。