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化学/非化石 環境配慮原料に転換
脱炭素・資源循環社会実現へ
脱炭素や資源循環社会に向けて、化学業界が動き始めている。自動車や洋服、食品包装などさまざまなものに使われるプラスチックや化学品。この原料を化石資源から植物や廃棄物、廃プラスチックに替え、製造に使うエネルギーも二酸化炭素(CO2)を排出しないものに替えようとしている。核となる技術や規則、各社の取り組みの進展を追う。
バイオマスナフサ/マスバランス方式 大手で利用広がる
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住友化学が愛媛工場に完成させた使用済みアクリル樹脂のケミカルリサイクルの実証設備 -
日本で初めて使用済み植物油などから生産されたナフサ代替原料“バイオマスナフサ”の利用を始めたのは三井化学だ。再生原燃料世界大手のネステ(フィンランド)から調達し、2021年度から大阪工場(大阪府高石市)のナフサクラッカーに投入を始めた。
現在、バイオマスナフサや廃プラから再生した材料などのサステナブルな原料は化石資源に比べ少なく、価格も高い。このためサステナブル原料から作られたモノは従来の化石資源由来とは別モノとして付加価値をつけて高く売らなければならないのだが、プラスチックの見た目や性質は同じ。そこでサステナブル原料由来のモノやこの原料を使う工場に国際的な“お墨付き”を与えて区別する方法が用いられている。
お墨付きの一つ「ISCC PLUS認証」は、三菱ケミカルグループや住友化学、三井化学、旭化成、UBEなど化学大手で取得が広がっている。この認証に基づき、工場で利用したサステナブル原料の比率に応じて製品の一部をサステナブルな製品として販売できる。化石資源由来のナフサ9トンとバイオマスナフサ1トンを原料に使った場合、バイオマス由来として販売できる製品は10%だ。このように原料を割り当てるやり方を「マスバランス方式」という。
化学工場は巨大で、連続運転しなければならない。現在はまだ、調達できる原材料の量の面からも、高い価格を受け入れられる市場の大きさの面からも、100%サステナブル原料を使う工場を動かすことは難しい。将来100%サステナブルなモノづくりを行うためにも、今はマスバランス方式でサステナブルと認められる製品を作って売り、市場をつくることが重要だ。
このほかに正しくリサイクルされたことを証明する技術として、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を用いた廃プラの再利用工程の追跡も有望だ。旭化成や三井化学などが実証実験を進めている。
廃プラ再生/ケミカルリサイクル拡大 分別簡単・高品質化目指す
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プラスチック製造の原燃料を転換する取り組みが進む(イメージ写真)
今、廃プラを原材料に戻すリサイクルも日本で広がり始めている。積水化学工業や三菱ケミカルグループ、住友化学、三井化学、レゾナック・ホールディングス(旧昭和電工)などが技術を開発し、新工場を稼働した企業もある。
再生プラ市場を拡大させるポイントは二つある。一つは、廃プラを厳密に分別しなくてもいいこと。もう一つは、高品質な再生プラにより再生プラの用途を広げることだ。
積水化学工業は22年に、プラ以外のゴミや複数種類のプラが混ざった状態のゴミから高品質なプラ原料を生産する実証プラントを岩手県内で稼働させた。ゴミを一酸化炭素と水素にガス化し、ガスを微生物の力でエタノールに変換する。エタノールは協力相手の住友化学が基礎化学品のエチレンに変え、エチレンから汎用プラのポリエチレンを生産する。
同社の技術には資生堂なども注目し、採用を検討する。食べ残しや紙なども混ざったプラを処理する技術は珍しく、リサイクル率を引き上げる強力なツールとなりそうだ。
三菱ケミカルグループはENEOSと共同で、茨城県神栖市に国内最大規模の廃プラのケミカルリサイクル用設備を建設し、23年度に稼働する。これも複数種類の廃プラを混ざったまま処理できる技術で、液化して「リサイクル生成油」を生産する。リサイクル生成油は、ナフサと同じようにナフサクラッカーに投入して、プラなどの原料となる。
このようなプラ内の化学結合を切って原料に戻すリサイクルは「ケミカルリサイクル」という。プラを溶かして原材料に戻す従来のマテリアルリサイクルよりも高品質な再生プラを得られるため、今後拡大が期待される。
プラの種類によっては「モノマー」というプラの構成単位に分解し、モノマーをつなぎ合わせて再生プラを作るケミカルリサイクルも取り組まれている。住友化学はこのほど、アクリル樹脂のモノマー化ケミカルリサイクルの実証設備を愛媛工場(愛媛県新居浜市)に完成させた。23年春からサンプル提供をはじめ、再生プラブランド「メグリ」の第1弾として25年内に事業化を目指す。
このほかに旭化成や三菱ガス化学がCO2を原料とする化学品の製造技術を開発するなど、原料転換だけでもかなり多くの取り組みが進む。多様な技術を使いながら、脱炭素・資源循環社会を実現する必要がある。
半導体に最先端材料 省エネに貢献、積極増産
広い視点で見ると、最先端材料の供給で半導体の進化に貢献することも脱炭素につながる。より高性能な半導体で情報処理量を増やせれば、従来の半導体を使うよりも使用エネルギーを減らすことなどにつながるからだ。
足元の半導体市場は調整局面に入っているが、化学各社は24―25年には再び拡大基調に転じるとみて、積極的な増産投資を続ける。レゾナック・ホールディングスは半導体用研磨材料(CMPスラリー)や銅張積層板などの増産を推進する。
住友化学は300億円を投じ、精密洗浄に用いる化学品(プロセスケミカル)の生産で米国テキサス州への進出を決めた。24年度に稼働する。東ソーは米国オハイオ州のグループ会社でアルミニウムや銅などの金属系スパッタリングターゲット材の生産能力を現行比約2倍に増強する。
ADEKAは国内で極端紫外線(EUV)露光向け光酸発生剤を増産するほか、台湾に先端ロジック半導体向け材料の新工場を建設、韓国では半導体の成膜工程に使う高誘電材料「アデカオルセラ」を増産する。
最先端半導体が生み出す新たな社会を材料から支える。