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航空・宇宙/小型機再開 エンジン好調
重工3社の業績回復けん引
重工業大手3社の民間航空機事業が復調し、再び業績をけん引している。コロナ禍からの経済正常化により、航空会社が小型機を中心に運航を再開し、エンジンのスペアパーツ販売が伸びている。円安による収益押し上げ効果もある。米ボーイングの機体分担製造は、同社が品質問題で中断していた中型機「787」の納入を2022年8月に再開した。787は日本勢の分担割合が35%と他の機種より高く、影響が大きいが、各社の業績への貢献は24年3月期になりそうだ。
航空/スペアパーツ販売伸びるー修理・整備も貢献
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三菱重工業が欧エアバスの小型機「A320neo」向けに手がけるエンジン
世界の航空会社が国内線向けに欧エアバスの「A320neo」、ボーイングの「737MAX」といった単通路小型機の運航を再開した。重工3社はA320neo搭載のエンジンを中心にスペアパーツの販売が伸びている。
エンジンに特化するIHIは回復が鮮明だ。航空・宇宙・防衛部門の23年3月期(国際会計基準)の営業利益予想を従来予想比93億円増の430億円(前期は93億円の赤字)に引き上げた。スペアパーツ販売の復調が続く。
ただ、懸念材料がある。地域路線用のリージョナルジェットのパイロット不足だ。福本保明執行役員財務部長は「(リージョナルジェット向けの)CF34の取扱高の力強さは戻っていない」と危惧する。パイロット不足で運航が伸びず、CF34のスペアパーツが伸び悩む。パイロット不足は簡単には解決できないとみられる。
三菱重工業は発電機器などのエナジー部門に航空機エンジンを位置づける。同部門の23年3月期(国際会計基準)の事業利益予想は前期比27・6%増の1100億円。エンジンのスペアパーツ販売と修理・整備(MRO)が好調で、同部門の増収増益に貢献する。
ボーイング機の分担製造を含む航空・防衛・宇宙部門は事業利益予想を従来予想比100億円増の400億円(前期比2・0倍)に引き上げた。分担製造が「為替の円安もあり、4―12月期に増収増益」(小沢寿人最高財務責任者〈CFO〉)となったことが寄与した。
川崎重工業は航空宇宙システム部門の23年3月期(国際会計基準)の事業利益予想を従来予想比20億円増の125億円(前期は103億円の赤字)に引き上げた。川重もエンジンのアフターサービスがけん引役だ。
787の分担製造の本格回復は先になりそうだ。川重の22年10―12月期の787の売上機数は6機で、前年同期より17機少なかった。山本克也副社長は「6機は計画通り。11月以降は順調に回復している」との認識を示す。1―3月は月4―5機のペースで生産する見通しだという。
生産ペースの回復が緩やかなのは、ボーイングが納入中断で787の在庫を抱えたためだ。納入再開後に在庫を先に出荷しているため、重工業大手の生産ペース回復に時間がかかっている。
とはいえ、長期的には重工業大手の分担製造に波及していく。ボーイングの22年の受注は前年比約4割増の774機に回復した。同年12月には米ユナイテッド航空から787を最大200機(100機はオプション)受注しており、787も好調だ。重工大手の民間航空機事業は今後、本格的な回復が約束されていると言える。
宇宙/遊泳の「旅」を現実に、進む技術革新―国産開発で安心・安全
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民間人4人を乗せた宇宙旅行に成功(イメージ=スペースX提供)
世界中で宇宙開発の重要性が唱えられ、新型の宇宙探査機やロケットなどの技術革新が目覚ましい。日本でも多くの企業が宇宙分野に進出し、新たな技術開発を進めている。さらに、誰でも宇宙を体験できる「宇宙旅行」や月・火星といった地球外天体の探査が進むなど、人類の宇宙進出に向けた動きが活発になってきた。新たな宇宙時代が始まりつつある。
日本は小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」をはじめとしてさまざまな宇宙機を開発してきた。その功績は世界から注目されている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)や100社以上の企業が持つモノづくりの技術が組み込まれて一つの宇宙機が作られている。近年は、長きにわたり宇宙開発を担ってきた三菱重工業やNEC、IHIなどのオールドスペースと高い技術力を持つ中小企業などの技術が組み合わさり、ミッション成功につながった例も多い。これまで宇宙分野の事業をしてこなかった非宇宙企業の成果もあり、参入の幅を広げるきっかけになっている。
最近では国際宇宙ステーション(ISS)での船内実験などを通して宇宙旅行、月や火星などでの探査ミッションに向けた成果創出が進む。22年11月には米国が提案したISSの30年まで運用延長に日本が参加すると表明し、人類が宇宙に進出するのに必要な技術の検証や開発につなげようとしている。永岡桂子文部科学相は「同延長は月・火星探査などへの技術実証の場で、なくてはならない」と強調した。
さらに日本は月近傍有人拠点「ゲートウェー」の日米協力に関する事項の取り決めに署名し、居住棟にバッテリーを、国際居住棟に環境制御・生命維持機器を提供する。このようなISSでの実験やゲートウェーへの技術提供にも企業が持つ技術を生かせる可能性が高い。
人類の宇宙進出のためには、宇宙飛行士が直接天体に降り立って探査する過程が重要になる。日本では22年3月から新人宇宙飛行士の選抜を実施し、1年間かけて2人の宇宙飛行士訓練生を選んだ。米航空宇宙局(NASA)は日本人宇宙飛行士がゲートウェーに搭乗する機会を1回提供するとしており、その機会やその後の月面探査で選ばれた2人が活躍するかもしれない。
現段階では宇宙飛行士や高額な費用を賄える資産家でないと宇宙に滞在できない。そこで提案されているのが宇宙旅行だ。将来的には誰でも宇宙に旅行できる計画だが、地球の青さを眺められ、無重力状態を体験できる数十分程度の旅行を提供する海外の企業が増えている。日本でも宇宙船の開発を進めるスペースウォーカー(東京都港区)が日本発の有人宇宙飛行を目指した宇宙船の開発を進めていたり、大分県や北海道では宇宙船の発着場となる「宇宙港」の設置に向け取り組んでいる。
国内の企業が有人での宇宙飛行を企画し、国内の宇宙港を使って宇宙への旅を提供できれば旅費が安価になるだけでなく安全保障の面でも技術流出を抑えられるなどの利点がある。人類が安心・安全に宇宙へ進出するためにも、多くの企業が宇宙分野に参入し、海外に後れを取らないよう技術開発を進めることが重要だ。スペースポートジャパン代表理事で宇宙飛行士の山崎直子さんは「宇宙から直接日本に帰れる可能性につながる」と期待を寄せている。