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デジタル変革(DX)/メタバース市場黎明期
情報・ITサービスを手がける各社が、デジタル変革(DX)推進機運の高まりを受け、新規サービスの開発・提供を加速している。足元で注目されるのが、メタバース(仮想空間)事業や、同空間での活用も可能なXR(仮想現実〈VR〉や拡張現実〈AR〉などの総称)関連事業。宣伝、社内外のコミュニケーション施策など、導入目的は多岐にわたるが、旺盛なDX需要を背景に、各社は事業成長につなげられるかが問われている。
大日印/現実と仮想空間を融合
2021年10月に米フェイスブックがメタへの社名変更を行ったことも話題となった。22年には日本でもメタ主催の展示会が開催され、IT、通信など幅広いプレーヤーが参加。大日本印刷(DNP)は現実と仮想空間を融合した「XRコミュニケーション事業」の一環としてメタバース事業に着手しており、同展示会でも現実と仮想空間を合成する「バーチャルプロダクション」などを展示した。企業もDXの取り組みとしてメタバースの活用を検討するなど、同市場は黎明(れいめい)期にある。
凸版/商談やショールームに
ゲームなど、エンターテインメントでの活用事例が多いメタバースだが、ビジネス用途でのメタバース活用に着目しているのが凸版印刷。22年4月からは、商談などのコミュニケーションが可能なメタバースプラットフォーム(基盤)「MiraVerse(ミラバース)」の提供を始めた。印刷企業として培ってきた正確な色の再現や質感計測技術、3次元(3D)コンピューターグラフィックス(CG)技術などを武器に、ショールームなどの活用を見据える。
仮想空間には時間や場所の制約がないため、会場構築コストの削減など、事業者にとってメリットも大きい。加えて同社が持つ翻訳技術などと同サービスを連携することで、海外の企業との円滑な商談も可能になるとみている。
一方、ビジネス利用で懸念されるのが、アバター(分身)の不正利用だ。凸版印刷では、電子透かしと非代替性トークン(NFT)の活用でアバターの不正利用を防ぐアバター生成管理基盤の「アバテクト」も展開している。22年にはディー・エヌ・エー(DeNA)が開催するメタバースイベントの参加者がアバテクトを活用し、アバターの流出/改ざんを抑止できたかなどの効果検証も行った。
CTC/地方移住相談窓口に
自治体向けでの活用も進む。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)では、インターネット上に地方自治体が移住相談窓口を展示できる仮想空間を開設した。メタバース活用の課題や有効性の確認に向けて、3月上旬まで検証を行った。
メタバース上の展示会場に、地域の実際の風景画や動画を持ち込み、説明することで、地域の特色をより効果的に伝えられる。移住検討者はパソコンやスマートフォンを用いて遠隔地から参加。アバターを通じて、就職情報や住宅物件、公共施設、子育ての支援制度などについて相談ができるといった利点を訴求する。
メタバース空間に没入できる技術としてVRの活用も注目される中、同技術をデジタルアーカイブ(保存記録)と融合した取り組みも見られる。DNPは、「METAVERSE EXPO JAPAN 2022 in CEATEC」で、空間体験型システムの「みどころウォーク」を出展した。
DNPが参画する「リシュリュー・ルネサンス・プロジェクト」で高精細に撮影したフランス国立図書館の歴史的空間「マザラン・ギャラリー」の天井画を用いて再現した仮想空間内を、VRヘッドセットを装着した利用者が手すりをたどりながら実際に移動することで、階段や地上・天井への距離の変化などを体感しながら動き回ることができた。
同「みどころ」シリーズでは新たな展開も生まれている。博物館の展示品や資料情報を、立方体状のインターフェースを通して、テーマや関係性などを多様な視点で鑑賞できる「みどころキューブ」を学校の授業で活用する取り組みだ。TRC-ADEAC(東京都文京区)所属の大井将生氏は「ギガスクール構想の下、端末は配布されたが、何を使ってどう教える/学ぶのかの議論は不十分。探究学習が重視される中、多様な問いにひも付く多様な資料を収集・活用できる学習環境が必要」と述べ、同ソリューションの有効性を評価した。
PwCコンサルティング(東京都千代田区)が22年3月、日本企業1085社を対象に行った調査によれば、87%の企業がメタバースをビジネスチャンスと捉えている傾向にあることが判明。中でも「新規ビジネスの創出」(47・4%)や、「営業力の強化」(33・6%)を期待する声が多く挙がり、DX施策として捉える企業が多いことも分かった。
一方、企業のDXの意識には課題点も見られる。ガートナージャパン(東京都港区)は、「25年まで、日本で『デジタル化』と呼ばれるものの7割以上は、従来のIT化/情報化とほとんど変わらない取り組みのまま」だと、日本のデジタル化に関する展望を発表。「実際には取り組みやすい従来のIT化や情報化の領域における対処にとどまり、本質的なビジネス変革を目指す動きが停滞する」と指摘した。
企業のDX戦略を進める上ではIT・DX部門と経営層の連携も重要になるが、同社の21年調査では「IT部門とビジネス部門は密に協業できる」と回答した割合は約35%にとどまった。
こうした実態を踏まえ、企業のDXを支援する企業各社は、企業のビジネスへの理解や助言、企業内のDX人材育成、体制支援などの観点でノウハウを提供する必要がありそうだ。DXの潮流を捉え、自社事業を大きく飛躍させることができるかも注目される。