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神奈川産業人クラブ新春特別講演会
神奈川産業人クラブ(中村幹夫会長=大和ケミカル会長、厚木商工会議所会頭)は、1月27日に横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ(横浜市西区)で「2023年神奈川産業人クラブ新春特別講演会・賀詞交歓会」を開き、コロナ禍に阻まれていた対面での交流を深めた。神奈川県の黒岩祐治知事が「当事者目線の障がい福祉の推進~ともに生きる社会を目指して~」、法務省公安調査庁横浜公安調査事務所の神保玲子所長が「経済安全保障の確保に向けて―技術・データ等の流出防止」の題でそれぞれ講演。また中村会長、日本産業人クラブ連合会会長を務める日刊工業新聞社の井水治博社長があいさつを述べ、約80人の参加者とともに神奈川県経済発展への決意を新たにした。
ご挨拶/日本経済成長へクラブ会員一丸に
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神奈川産業人クラブ会長 中村 幹夫
(大和ケミカル会長、厚木商工会議所会頭)
本年も皆様よろしくお願いします。
新年ですが、国際紛争、グリーンインフラ、少子化など大変な問題はあるが、今年への期待も込めて明るい話をします。
今年の干支は60年に一度の年回り「癸卯(みずのとう)」。草木の芽吹きをうながすという意味があるそうです。60年前には、池田勇人首相が所得倍増論を打ち出しました。これは世界も驚く経済成長の契機になりました。今年もそのような年になるよう期待したいと思います。
昨年末に日銀が発表した企業と個人が手元に置いている現金の総額が、国家予算よりも多い125兆680億円となったそうです。この3分の1でも市場で流通すれば、日本経済は良くなるでしょう。神奈川産業人クラブも日本経済をよくするために一丸となってまいりましょう。
経済安全保障の確保に向けて ―技術・データ等の流出防止/公安調査庁 横浜公安調査事務所長 神保 玲子氏
本日は経済安全保障の観点から、わが国の技術・人材流出リスクと、これを踏まえた公安調査庁の取り組みについてお話ししたい。
経済安全保障が強く意識されるようになった背景には、技術覇権をめぐる米中の対立がある。経済に関連する分野で安全保障に影響を及ぼす事象が顕著に見られる中で、米中も取引規制や入国規制など、けん制する動きを互いに強めてきた。
公安調査庁は2022年4月に「経済安全保障特別調査室」を新たに設置し、経済安全保障にかかわる情報の収集・分析に注力している。懸念主体による技術の窃取や不当な影響力の行使、諜報(ちょうほう)活動などの実態解明が目的だ。
国際社会では国家安全保障を確保するカギとして、経済上の手段を用いる動きが先鋭化しており、各国は自国の優位性を確保するため、機微な技術やデータ、製品の獲得に向けた動きを活発化させている。その被害を未然に防ぐため、懸念国が日本の企業にどのような働きかけをしているのかを調査し、情報分析の結果を首相官邸や関係府省に提供している。
では、わが国の技術や製品をどう狙ってくるかだが、第一に不正調達や諜報活動、サイバー攻撃などの不正行為がある。このうち不正調達では、日本企業の海外子会社が製造・販売した製品が「外国為替及び外国貿易法」(外為法)の規制をかいくぐって、懸念国の手に渡った事案がある。海外拠点の管理体制が脆弱(ぜいじゃく)な場合には、日本の本社が報告の徹底や業務監査体制の整備などで、きめ細かく対応する必要がある。
諜報活動では会社に近い路上で社員に「この近くに良い飲食店はないか」と話しかけて近付き、飲食の席などで接触を繰り返すといった手口がある。その中で最初は機密とも言えない軽微な情報の提供を求め、回を重ねるうちに要求をエスカレートさせていくという具合だ。不審な働きかけがあったら組織内で情報を素早く共有し、個人でなく組織的に対応することが重要だ。不審な接触に関する報告や相談の窓口を設けるなどの方法が考えられる。
これらの不正な活動だけでなく、投資や買収、リクルート、共同研究といった通常の経済活動を装う手口もある。実態を把握しにくいので注意が必要だ。
例えば投資や買収をめぐる事案では、外国企業の日本法人から融資を受けた日本の企業が、秘密保持契約の内容から逸脱する要求をされた例がある。懸念国の企業やその日本法人と、機微な情報が絡む契約を結ぶ際には、契約で定める範囲を十分に確認し、締結後もその誠実な履行を求めていく必要がある。
中小企業・小規模事業者の事業承継に絡む投資話もある。世界で唯一の技術・ノウハウを持つ企業は、海外から狙われる可能性があり、資金提供を受ける際には、技術流出の可能性を慎重に見極めなければならない。大企業も自社のサプライチェーン(部品供給網)を構成する中小企業が、投資や買収の対象になっていないかどうかに留意する必要がある。
共同研究にも注意が必要だ。日本の企業や大学に、高額の資金提供と引き換えに、見返りを要求する外国企業がある。懸念国の企業と共同研究を行う際には、研究成果の帰属や利用に関する権利関係を、適切に管理できる体制を整えるよう心がけてほしい。
インターンシップ(就業体験)などの人材交流や、リクルートにかかわる事案も見逃せない。営業秘密が流出する原因としては、中途退職者による情報漏えいが多い。あらかじめ秘密保持契約を締結しておくほか、社員の退職が判明したら転職先などを把握し、退職前の秘密保持契約の締結や、機密情報に対するアクセス制限を徹底して、技術やデータの流出を防ぐことが重要だ。
公安調査庁は、経済安全保障に関する講演を全国各地で行っているほか、企業などの相談や講演依頼に応じる窓口を設けている。詳細は当庁のホームページ(HP)に掲載している。経済安全保障に関する特集ページもあり、最新動向を紹介しているので参考にしてもらいたい。
(公安調査庁ホームページ:https://www.moj.go.jp/psia/)
当事者目線の障がい福祉の推進~ともに生きる社会を目指して~/神奈川県知事 黒岩 祐治 氏
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神奈川県知事 黒岩 祐治 氏
本日は、4月に施行する「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例~ともに生きる社会を目指して~」についてお話しします。
この条例制定に至る原点は、7年前に県立の障害者支援施設で起きた「津久井やまゆり園事件」にあります。「コミュニケーションが取れない人間は、生きている意味がない」という独善的な考えで、元職員により19人もの尊い命が奪われるという大変痛ましい事件でした。
県では、事件後、津久井やまゆり園の再生に取り組んできましたが、その中で複数の県立障害者支援施設で行われてきた支援に問題があることが判明しました。障害者の安全のためといった理由で、車いすに縛り付けられた人や、施錠した部屋に長時間閉じ込められた人がいることが分かったのです。
私は、施設を訪問して当事者の方々にお会いし、直接おわびをしました。驚くことに、そのうちの1人の方が帰り際に追いかけてきて、私が乗る車をいつまでも見送ってくれました。その時、「気持ちが通じた。コミュニケーションが取れた」と確信しました。それとともに、「今までの障害福祉は、当事者の目線で支援を考えていない。そこに大きな問題がある」と思い始めました。
私は、障害当事者と対話を重ねながら、条例制定を目指しました。そして、2022年10月に県議会の全会一致で条例が成立しました。同時に、障害当事者の声を受けて、平易な表現を用いた条例の「わかりやすい版」を作成しました。これは、おそらく日本の法令で初の試みだと思います。
条例制定までの過程で、私は「目線」がいかに大事かを学びました。これは障害福祉に限った話ではありません。当事者の目線に立っているのと支援者の目線に立っているのでは、見える景色が全く異なります。人は相手の目線で見ることがなかなかできません。例えば、皆さんは、会社で部下の目線に立ったことがありますか。家で家族の目線で考えたことがありますか。自分の目線だけで物事を考えてしまうと、わがままや思い上がり、独善に陥りやすいものですが、目線を変えて、相手の目線で考えることができると、本当の優しさにつながっていきます。だから県の職員には「県民のための行政」でなく、「県民目線の行政」を心がけるよう呼びかけています。相手の目線に置き換えることで、違ったステージが見えてきます。これからも「目線」にこだわっていきたいと思います。