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ジェイテクト
高精度加工を実現する中型円筒研削盤G3
「いつでも狙った精度に、思うがまま。」
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図1.新型円筒研削盤Gシリーズ -
図2.高精度を実現する中型円筒研削盤G3機械仕様
ものづくりの現場では、さらなる生産性向上と労働人口の減少に対応するため「自動化・省人化」が求められている。また、脱炭素社会の実現に向けたカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への関心も高まってきている。2021年には日本で公表された「グリーン成長戦略」にて、「35年までに新車販売で電動車100%を実現する」旨が明記されるなど、電気自動車(EV)化への動きが一層加速している。このような社会環境の変化に対し、当社は「価格を削れ、品質は削るな。」をキーワードに、自動車業界で培った高い信頼性と技術を継承し、さまざまな顧客ニーズにお応えする円筒研削盤Gシリーズ(図1)を発表した。本稿では、工具・スピンドル等の高精度加工を実現する中型円筒研削盤G3(以下、本機と称する)を紹介する。(図2)
自動化・省人化
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図3. 自動化・省人化 -
図4 . 加工面状態のリアルタイム監視測定装置
当社の汎用円筒研削盤を使用する顧客から、「何とか生産性を上げたいが、人もいない。小ロットのワークを夜間自動で加工して、朝、納品するような仕事もある。何とかならないか」との声を頂いた。ジェイテクトでは協働ロボットと搬入出パレットを機械の前に配置し、自動生産できるシステムを考案した。これにより、昼間は汎用機として、夜間は自動ラインとして使用することが可能となり、ユーザーの生産性向上を実現した。(図3)
また、別の困り事として、「加工面の良否判定を自動化できないか。」という声を頂いた。通常、加工面の良否判定は生産ライン外で行う測定結果と、オペレータの目視判定により行っている。砥石(といし)の目立てサイクルの間隔であるドレスインターバルは、前述の結果から熟練者が決定している。この場合、ライン外で測定することによる時間的な「遅れ」と、人に依存する「判定の差」が問題であった。そこで、加工面状態を「リアルタイム」に監視する測定装置と、その情報をデジタル化・見える化し、「定量的」に評価できるシステムを開発した。(図4)
加工面測定には加工室内に設置された定寸装置を使用する。定寸装置に付加したセンサーにより加工面の情報を取得するが、工作物に接触させるだけでは“点”の情報でしかない。そこで、工作物を回転することで“点”を“線”へ、さらに横方向に移動させることにより“面”の情報を取得する。次に、得られた情報から独自アルゴリズムを使用し3Dマップを生成する。これによって加工面の状態を数値化することができる。
本システムを活用することで、加工品質を損なうことなく、寿命の限界まで砥石の使い切りが可能となる。
前述のように、ドレスインターバルは測定結果と過去の経験から熟練者により決定されるが、一般的には安全を加味して設定される。品質不良の加工品を後工程へ絶対に流してはならないからである。
一方、本システムを活用すれば加工面をリアルタイムに観察できる。あらかじめ設定した規格値に対して、現在の品質状態がどのレベルにあるのか、定量的に判定する。最適なタイミングで砥石のドレスを行うことができ、ドレスインターバルは従来の1・5倍以上を実現。ユーザーの生産現場において、自動で良品を流し続けるシステムの構築と、ツールコスト削減を実現することができる。
カーボンニュートラル
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図5. 「スリープイン」「ウェイクアップ」機能
設備の「非加工時間」「加工時間」における消費エネルギーを低減することにより、顧客の生産工場での二酸化炭素(CO2)排出量を削減し、脱炭素化社会の実現に貢献する。
「非加工時間」では待機エネルギーの削減に着目し、「スリープイン」「ウェイクアップ」機能を搭載した。スリープイン機能では、休憩時間に入ると、モータ・ポンプ類やエアパージなどを適切なタイミングで自動オフする。ウェイクアップ機能は、生産開始後の加工精度を維持できるよう、暖機運転で必要なクーラント吐出や砥石軸起動のタイミングを自動で算出する。これにより、ムダなく初品一本目から良品が生産できる。(図5)
また、砥石軸には、長きに渡りご好評頂いている信頼の流体軸受仕様に加え、当社の高精度・高剛性軸受を搭載し「低振動」を実現した転がり軸受仕様をバリエーションに加えた。これにより、砥石軸受油ポンプユニット廃止による消費エネルギー低減が可能となる。
また、安全・環境に配慮した全体カバー仕様においては、機械前面自動扉の駆動源として従来のエアーに代わり、電動シリンダーを採用した。これらの取り組みにより、年間約3トンのCO2削減を実現した。
抜群の品質
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図6.抜群の品質
当社の円筒研削盤は以下の技術により長期間安定した精度保持を実現する。
・内製高級鋳物の採用により、ベッド、テーブルのスライド面が摩耗しにくい。
・砥石軸受に流体軸受を採用し、高精度な回転精度と高減衰性を発揮することで、”美しい”加工面を維持。
加えて、顧客の「朝一の寸法補正をなくしたい」との声を実現するために、以下の機能を搭載している。
・流体軸受油の温度を管理する冷却装置。
・砥石軸回転時、工作物主軸回転時の発熱による変形を抑えるためクーラントによる鋳物本体冷却、ならびに砥石台位置を把握するリニアスケール付属。
さらに、本機では砥石表面の正確な位置把握に着目した。
これまでは砥石摩耗が進行するにつれて、砥石表面位置が切り込み方向に徐々に後退し、結果、工作物寸法も徐々に変化していたが、本機では砥石表面位置を把握するセンサーを搭載した。直接、砥石表面位置を検知可能にしたため、ドレス位置・加工位置に対し、砥石表面の位置を正確に割り出せる。
これらの機能により、恒温室において寸法ばらつきはプラスマイナス直径1・5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)を実現、ドレス・加工時間は1サイクルで約1分短縮できた。(図6)
「もっと使いやすく」を実現
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図7.「研削条件自動決定機能」と「こだわりの操作性」
ビギナーにも、ベテランにも、「もっと使いやすく」を実現するために、優れた操作性と豊富な機能を実現した。
当社の80年の歴史の中で顧客と共に築き上げたノウハウを集積した自動研削サイクルを、最大16パターン標準搭載している。オペレータが思う通りの研削サイクルを、自らプログラムを作成することなく、パラメータの設定だけで作成できる。
初めての人でも簡単に研削条件を決定できる、研削条件自動決定機能も標準搭載している。工作物の大きさなど4項目を入力するだけで、誰でも簡単に研削条件を決定できる。このことにより、プログラム作成時間を従来の4分の1に短縮した。
また、「ハンドルを使って油圧機と同じ感覚で加工したい」というユーザーには、機械前面にハンドルを設けた「PRO HANDLE」仕様を用意した。さらに、顧客から「ハンドルのトルクを自由に変えて自分好みのハンドルの重さにカスタマイズしたい」、「砥石が工作物に切り込んだ感覚を手に感じたい」という声を背景に、自社製の自動車のハンドル操舵性を追求した「ステアバイワイヤハンドル」を応用し、操作画面で好みのハンドルトルクに変えることができる機能を搭載した。また、加工の感覚をハンドルに伝える機能も搭載して、お客様が安全に確実に、直径1マイクロメートル台の精度に加工できるこだわりの操作性を実現した。(図7)
おわりに
当社の円筒研削盤には各時代の要求に応え改良・進化してきた歴史がある。今回、「自動化・省人化」、「カーボンニュートラル」に貢献するため、「価格を削れ、品質は削るな。」の掛け声を元に、高い信頼性を誇る基盤技術をベースにしながら、すべての顧客に満足頂ける、良質廉価な円筒研削盤Gシリーズを開発した。
また、第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)では、レーザークラッド工法によるメッキ代替技術を円筒研削盤に搭載した複合加工機をご提案し、多くのお客様から好評を頂いた。今後も、複合化を含めた更なるシリーズ展開により、多くの顧客に満足頂ける商品を届けたい。
【執筆者】
ジェイテクト 工作機械・システム事業本部 工作機械技術部 開発グループ グループ長 長屋 久幸