医薬品
新型コロナウイルス感染症の日本での第1号感染者が2020年1月15日に確認されて3年。ワクチン頼みは変わらないものの、感染症法上の分類について、行動制限の根拠とされる「2類相当」から「5類」へと引き下げることが決まった。5月8日に移行する予定で、新型コロナ対策は転換点を迎えた。社会経済活動との両立をいかに図っていくか。実効性が問われる。
製薬会社の疾患啓発活動
製薬会社は医薬品を通じて病気の治療に貢献するだけでなく、多様な疾患を抱える人々が暮らしやすい社会の実現に向け、疾患の啓発活動にも積極的に取り組んでいる。2022年末、ツムラは「更年期」に関する調査をまとめ、英アストラゼネカグループは希少疾患に関する啓発イベントを開催。日本イーライリリー(神戸市中央区、シモーネ・トムセン社長)は20年から始めた「みえない多様性プロジェクト」をさらに進化させた。
更年期 人生の”ハーフタイム”
ツムラは22年12月、40ー60代の男性600人を対象に、「更年期」に関する調査内容を公表した。男性更年期とは、40代以降からの男性の性ホルモン分泌量の低下が訪れる時期のこと。更年期症状は、更年期の時期に現れる多様な症状の中でも、ほかの病気を伴わないものを指す。
更年期症状の一般的なイメージはイライラや疲れ、発汗やほてりだが、自覚症状のある男性の約7割は「疲れ」を感じており、イライラよりも「頻尿」や「不眠」を感じている人が多かった。
また、7割超が「更年期症状は男女ともに生じると思う」と答えた一方で、8割超が自分の更年期の症状について「対処方法が分からない」とした。
さらに「更年期はネガティブな時期である」と約7割がとらえており、自覚症状がある40-60代男性の約6割が「日常生活や社会生活に支障をきたしている」にもかかわらず、「更年期症状を周りに言いにくい」「更年期症状があっても認めたくない」と感じていることが分かった。
一方、20-60代の女性を対象に行った更年期に関する調査では、自覚症状のある女性は「疲れやすさ」「肩こり」「気分の落ち込み」に悩んでおり、男性の症状との違いが明らかになった。女性の更年期は閉経前の5年間から閉経後の5年間を合わせた10年間。
かつて更年期症状は女性特有のものと考えられていたが、現在は男女ともに広く認知されている。だが、症状の改善に向けては多くの人が取り組めていないのが実態だ。男性更年期の専門家である堀江重郎順天堂大学医学部教授は「更年期は誰もが迎える人生の”ハーフタイム”。後半戦をより有意義に過ごすためにも、心身の不調などが現れた場合は、泌尿器科医を受診してほしい」と話す。
希少疾患への”気づき”促す
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希少疾患の理解促進を目的とした12月開催のイベントの出演者(アレクシオンファーマ提供)
希少疾患とともに生きる患者についての理解を深めよう―。米アレクシオン・アストラゼネカ・レアディジーズの日本法人アレクシオンファーマ(東京都渋谷区、笠茂公弘社長)は12月24日、都内で啓発イベント「希少疾患と社会、私たちが気づきあうためのヒント」を開いた。
幼少時、全身の骨が骨折を繰り返す難病「先天性骨形成不全症」を患った歌手の米良美一さんが、オープニングで「ホワイトクリスマス」を熱唱。「若いころは病気を受け入れられずに隠していたが、最近は”あるがまま”の自分を受け入れ、前向きに生きている」と語った。身障者、健常者というくくりを越え、困っている人に寄り添うことの大切さについても述べた。
一方、専門家である関西電力病院の千葉勉特任院長は「約1万種類ある希少疾患の中で、現在、治療可能な疾患はわずか5%。疾患の認知度が低いため専門医が少なく、診断にも時間がかかる」との課題を指摘した。
そのほか慶応義塾大学大学院の蟹江憲史教授は、英慈善団体チャリティーズ・エイド・ファンデーションが毎年発表する「世界人助け指数」の国別ランキングで日本が最下位レベルであることに触れ、「障がいを持つ方を表すヘルプマークなどさまざまなサインがあり、それに”気付くこと”を意識することが大切だ」と話した。
展示コーナーでは、認知度の低い希少疾患や、マークやサインを楽しく覚えられるクイズラリーを実施し、多くの人が体験した。
希少疾患は種類が多く専門医が少ないため、診断までに平均4.8年かかることが報告されている。疾患の認知度が低く、日常生活の困りごとも周囲に理解されにくい。
国連の持続可能な開発目標(SDGs)では、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っており、SDGsの観点からも、希少疾患の理解促進は欠かせなくなっている。
見えない多様性ー理解し合う
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武庫川女子大でのグループワークの様子(日本イーライリリー提供)
日本イーライリリーは、片頭痛などの頭痛や腰痛、生理痛など、目に見えないさまざまな痛みや不調を抱える人が働きやすい職場づくりを目指す「みえない多様性」プロジェクトを推進している。
22年には、これまで企業や団体、自治体、医療従事者、健康経営の専門家らと取り組んできたプロジェクトを大学にも広げた。10月には慶大の三田キャンパス(東京都港区)でワークショップを開催。プロジェクトで開発した「ストーリーカード」を使い、学生が他者の”みえないつらさ”を想像するカードゲームを実践した。
例えば、カードに書かれた「サークルやゼミでいつも話を盛り上げてくれる人が、今日は不機嫌そうな顔をして話し合いに全然参加してくれない。なぜだろう?」との問いに対し、その事実の背景にあるかもしれない「もしかしたら?」を考えるといった内容だ。
参加した学生からは、「『隠れているものがある』ということを知るだけでも、当事者にとっては支えになるのでは」「自分の不調や悩みごとも共有したら、意外にも周囲に共感された」などとの感想が聞かれた。
11月には、武庫川女子大学の中央キャンパス(兵庫県西宮市)でも同様のワークショップを開いた。片頭痛や生理痛など周囲から見えづらい健康課題は、10代で発症することも多い。同社は職場だけでなく、学校や地域などとともに「みえない多様性」の存在を理解し合い、支え合っていけるコミュニティーづくりを目指す。