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ロボ、EV向けなどで需要拡大
歯車は動力や運動を伝達する機械要素。エンジンやモーターなどの動力機が生み出す回転を、回転数や回転方向を変えながら機械の各部に伝える伝動機構の役割を持つ。自動車や工作機械、ロボット、産業機械など多岐にわたって利用されている。
種類は形状や歯の付き方によってさまざまだ。平歯車、はすば歯車、傘歯車などが代表的。最も一般的なのが平歯車で、回転軸と平行な歯を持つ。はすば歯車は歯が斜めに付いている。一度に多くの歯がかみ合うため強度が高く、音や振動が発生しにくい。傘歯車は傘のような円すい形の歯車。縦軸の動きを横軸に変える際に用いられる。このほかにも、内径に歯を持つ内歯車や、ねじ状の歯車と組み合わせて使うウォームギアなどがある。
経済産業省が2022年に発表した機械統計によると、国内の21年の歯車生産額は約1426億3870万円で前年比約121%。直近5年間で最も高い金額となった。20年に新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだが、既に順調に回復している。主な要因としては、歯車需要の約半分を占める自動車産業がコロナ禍の巻き返し生産に動き出したことや、工場自動化(FA)や産業ロボット向けに減速機の需要が高まったことがある。歯車は減速機に必要不可欠な要素だ。22年は半導体不足の影響などで自動車の生産が落ち込んだことから、21年よりは歯車の生産額も落ち、19年並みになる見込みだ。
歯車の種類多様化/静音・軽量化など
主な歯車の種類ごとの生産数を見ると、はすば歯車の生産数が全体の6割以上を占めている。国内の乗用車用トランスミッションのほとんどがはすば歯車式。平歯車に比べて大きく重量もあるが、静音性に優れ、振動も発生しにくいことから普及している。今後、EV化の進行で回転機構を組み合わせた軸付きのはすば歯車の需要も高まると見られている。平歯車は全体の約15-20%の生産数。自動車産業での利用が少ないため全体の生産数も少ないが、小型化が可能で小さな機械にも組み込みやすいため、産業用ロボットなどで多用されている。
またこれまであまり活用されていなかった傘歯車の生産数が徐々に増加している。21年の生産数は約210億748万個で5年前に比べて約1・9倍だ。傘歯車は歯が直線のストレートベベルギアと、曲線状の歯のスパイラルベベルギアに細分できる。特にスパイラルベベルギアは、交差する二つの歯車が互いに絡みつくことで強くかみ合う。高速回転でも騒音、振動が少なく、歯面強度が高いため、用途が広がっている。EVの駆動装置「eアクスル」の構成要素としても需要が高まる。EV向けには特殊な形状の歯車の需要も高く、今後必要とされる歯車の種類は多様化すると見られる。
精度高める加工法広がる/複雑形状に対応
需要の高まる歯車産業では、より高精度で複雑な加工のため加工機や技術も進歩を続けている。歯車の切削は、ホブ盤を用いた歯車創成や、マシニングセンター(MC)を用いた歯車成形が一般的。工作機械や工具の発展に伴い、歯車創成法のひとつであるギアスカイビングも注目を浴びている。
歯車創成法は最も一般的な歯車加工で、外周に切れ刃と溝を持つ歯車状の工具を回転させることで加工対象物(ワーク)全体を少しずつ削って形を作る。精度の高い加工が可能だ。平歯車やはすば歯車ではホブ盤、傘歯車は専用の歯切り盤を用いる。歯車成形法はフライス盤やMCなどを用い、歯を1枚ずつ切削する。創成法より精度は劣るが、専用機を必要としないためコストの低減が可能。小型製品や量産品の製造に用いられている。
ギアスカイビングは歯車創成法の一種で、工具とワークを高速で同期回転させながら切削する。精度を保ちながら高速で加工でき、複雑な形状の歯車にも対応する。MCや複合加工機を用いるため、加工工程を集約できるのも特徴だ。工作機械や工具の精度が向上したことにより、従来難しかったギアスカイビングでの内歯車の加工も実現。特殊な形状の歯車のニーズが高まる中、活用に期待がかかる。
また歯車の精度を高めるためには、加工後の仕上げ工程も重要。22年11月に開催した日本国際工作機械見本市(JIMTOF)では、EV向け歯車部品に特化した数値制御(NC)歯面仕上げ盤や、NC歯車面取り盤などが出展された。従来は歯車の両端面の角部を用いて転造によって取り除くフレージング加工が主流だが、歯面・端面方向に盛り上がりやバリ残りが発生することが課題となっていた。ねじ状の工具を使って工具と被削歯車の同期運動によって形状を作り出す創成法を採用。切削加工で面取り部分を除去するため、フレージング加工を上回る面品位を得られる。需要が高まる歯車産業は今後もモノづくりのニーズに合わせて発展を続ける。
若手技術者育成の専門講座、対面で再開
産業の発展には人材の育成も欠かせない。日本歯車工業会(JGMA)が力を入れる活動の一つが若手技術者の教育・育成だ。5月から歯車技術講座「JGMAギヤカレッジ」を開催する。対面で講座を開催するのは3年ぶり。コロナ禍の影響でオンラインでの実施が続いていた。
JGMAギヤカレッジは若い世代の技術者に普遍的な歯車技術・ノウハウを継承し、歯車産業のグローバル競争力を維持・向上することが目的。2005年に九州大学大学院に設置された「ものづくりスーパー中核人材センター 歯車製造コース」の事業を?年に同工業会が引き継いだ。「マスターコース(基礎講座)」と「プロフェッショナルコース(応用講座)」の2コースを展開する。
マスターコースは、歯車の設計・製造に関して横断的に学べる基礎講座。講義だけでなく、希望者は実際に企業の製造現場を体験することが可能だ。コロナ禍で中止が続いていたが、本年度から再開する。実際に製造現場を体験することで、理解度が高まるだけでなく、受講者のコミュニケーションが深まり人脈形成にも役立つという。
プロフェッショナルコースは歯車の性能評価や、不具合に対する原因究明・対策など一段上の技術を取り扱う。
また修了生に向けた取り組み「JGMAギヤカレッジフォローアップ研修会」も実施する。講演会や研究会、懇親会などを通じて企業の枠を超えた技術交流を促進する機会となっている。
デジタルツイン活用で小型軽量化に対応
ジェイテクト歯車事業部 部長 牧 泰希 氏
ジェイテクトが歯車事業で攻勢を強めている。自動車部品や工作機械、軸受といったグループの強みを結集し歯車を新たな事業の柱に育てている。2021年11月には試作拠点となる「ギヤイノベーションセンター」を立ち上げ22年8月には電動駆動装置「eアクスル」向けの超小型ディファレンシャルギア(デフ、差動装置)を開発した。加工やシミュレーション技術を駆使しこれまでなかった歯車を試作・量産する。歯車事業部の戦略を牧泰希部長に聞いた。
-なぜ歯車事業を立ち上げたのですか。
「既存の強みから新たな事業が生み出せるからです。当社は自動車部品、工作機械、産機・軸受でさまざまな技術を持っており、歯車はこれら技術と親和性が高く、ナンバーワン・オンリーワンのモノづくりができます。グループ企業を含めると歯車関係の設備を全部そろえることも可能です。歯車装置の小型軽量化の要求から歯車の正常なかみ合い状態を維持することが難しくなってきており、ノイズや耐久性が課題になっています。当社の3D歯面修整設計・加工技術で、歯車の歯の形状を丸くしたりねじりを自由にコントロールしたりすることで耐久性を数倍に向上させることができます。この歯車を電動車に搭載すれば高速回転に耐えられ、航続距離が伸びるといううれしさにつながります」
-工作機械や軸受事業で培ったシミュレーション技術も大きな効果を出しています。
「『性能と加工』の二つのデジタルツイン(現実世界をデジタル空間上に再現)を構築しています。性能デジタルツインでは歯車のかみ合いや振動を模擬。個別のギアだけでなくユニットとして性能を評価できます。加工デジタルツインではスカイビング加工などをシミュレーション上で実施することで、カッターの回転数や歯を削る切削力を計算し最適条件を導出します。また、自動ツーリング機能により歯車の形状をシステムに入力すると自動で工具やホルダー、治具をデータベースから導き出します。この二つのデジタルツインによりこれまで3カ月から半年必要だった試作を数週間で実現できます」
-これらの技術を活用し、新構造のeアクスル向け超小型デフ「ジェイテクト ウルトラ コンパクト デフ(JUCD)」を開発しました。
「従来のベベルギア式から構造を一新し、容積が同等ならデフ強度は2・15倍以上、デフ強度が同等なら必要容積を6割減にできます。eアクスルは小型化ニーズが強く、現在多数のお客さまに性能を確認していただいています。要求されたものを製造するのではなく新たな製品を自社で開発・提案することでお客さまと開発の前段階から連携を進め、ビジネス拡大につなげていきます」
-今後の期待は。
「歯車は何千年も前からある歴史の古い機械要素ですが、最先端の機械の商品力を決めており、機械の小型化や効率化を実現するには歯車の高度化が不可欠と考えています。今後ますます競争力が求められる事業として進化させていきます」