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生産性向上を支えるゼネコンの最新技術
ロボット・AI活用加速 コスト・人手不足に挑む
建設業界では土木・建築現場で、生産性の向上に寄与する施工ロボットや人工知能(AI)を活用する動きを加速している。背景にあるのは慢性的な建設技能労働者不足と、2024年4月に迫る時間外労働の上限規制適用という課題。建設資材価格が高騰する中、建設コストを抑える効果も求められる。各社とも技術開発に磨きをかけ、逆境に挑む姿勢を鮮明にしている。
鹿島 「スマート生産」完成域
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「大宮桜木町1丁目計画」工事で導入されたシステム天井の施工ロボット(鹿島建設)
鹿島は25年度にも、建築工事の生産プロセスを一新することで生産性を向上する「鹿島スマート生産ビジョン」を完成する。施工ロボットの活用や管理の遠隔化、建築の3次元(3D)モデリング技術「BIM」の導入などを加速。目指すのは作業・管理双方で30%の生産性向上だ。
スマート生産ビジョンは、建設現場で深刻化する担い手不足問題への“解”となる。自動化できる作業はロボットなどで補完・代替し、どうしても人手が必要な工程に作業員を配置する。単純作業や負担の多い作業を自動化できれば、作業員が職能や経験を拡充することも可能になる。
同社は18-19年に施工した「名古屋伏見Kスクエア」の18技術を皮切りに、19-21年の「横濱ゲートタワー」で15技術、21年からは「大宮桜木町1丁目計画」でも19技術を新たに導入し効果を検証している。ロボットやシステムはほかの現場にも展開し、次世代の建築現場を具現化する。
大林組 ロックボルト遠隔打設
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大林組が開発したロックボルト遠隔打設専用機「ロボルタス」
大林組は山岳トンネル工事に向け、遠隔操作によってロックボルトの打設作業を行う専用機「ロボルタス」を開発した。削孔からモルタル注入、ロックボルト挿入までを実施。トンネル工事全体の生産性向上と40%の省人化を見込んでおり、安全・迅速なインフラ整備につなげる。
ロボルタスは、同社が構築する統合システム「OTISM」の一部。作業員は危険な切羽(掘削面)に近づくことなく、遠隔操作で必要な作業を行える。ロックボルトの長さや種類なども設定でき、設計変更にも対応できる。作業員の技量に影響されない安定した施工が可能という。
ロボルタスにより、作業員を従来の5人から3人に減らせる。ブームにはロックボルト20本も収納でき、作業工程を短縮する効果が期待できる。地山の性状に応じた制御が可能なハンマードリル機構や、削孔時のエネルギーを解析して切羽の安全性を評価するシステムも搭載した。
清水建設 空調制御システムにAI搭載
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空調制御システム(イメージ=清水建設)
清水建設はAIを搭載し、循環させる清浄な空気の風量を最適化する空調制御システムを開発した。センサーが捉えた室内の環境変化に応じて、AIが運転出力を制御。従来を30%下回るエネルギーで必要な水準の清浄環境を保てる。クリーンルームの新設・改修工事に提案する。
同社の省エネ型クリーン空調制御システム「クリーンEYE」を改良し、制御機構にAIによる深層強化学習機能を搭載した。深層強化学習には数値流体力学(CFD)の解析技術を活用し、訓練用データで学習を重ねられる環境を構築。学習期間を従来の半年程度から2カ月程度に短縮できたという。
クリーンEYEは、電子デバイスの工場などで求められるISO(国際標準化機構)の清浄度クラス6-8に適応する。作業者を検知する人感センサーと室内の粒子濃度を検知するパーティクルセンサー、センサーの検知データを基に出力調整を行う制御装置で構成されている。
大成建設 掘削・砕岩作業を無人化
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「T-iRobo UW」による作業イメージ(大成建設)
大成建設はダムの改修工事に向け、遠隔操縦式の水中作業機「T-iROBO UW」に装着するアタッチメントを拡充した。このほど、硬岩掘削用の2種類を開発。従来のアタッチメントとの併用により、軟質な堆積土から硬質な岩盤まであらゆる地盤での水中掘削を可能にした。
T-iROBO UWは、同社とアクティオ、極東建設が14年に開発した水中作業機。水上の台船からダムの湖底にシャフトを降ろし、これに沿って昇降する作業機に各種アタッチメントを装着することで掘削・砕岩作業を無人化する。すでにダムの改修工事に適用した実績がある。
作業機に搭載したマシンガイダンス(情報化施工)により、オペレーターはモニターに映し出された画像を確認しながら遠隔で操作できる。今後はダムの改修をはじめとする各種水中掘削工事で提案・活用。水中作業の施工精度や作業効率を向上し、工期・コストの圧縮につなげる。
竹中工務店 高臨場感音響VR体験
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音の伝わり方の解析イメージ(竹中工務店)
竹中工務店は劇場やホール向けに、仮想現実(VR)を使った可搬型の音場シミュレーターを開発した。建物の設計段階で、臨場感のある音響と内部の完成イメージを疑似体験できる。発注者が求める印象やイメージを共有し、要望や意向を正確に反映した環境づくりを追求する。
同社はこれまで、劇場やホールの設計には自社開発したシミュレーターやVRシステムを活用してきた。新シミュレーターはこれらを組み合わせ、さらにより高い臨場感を味わえる機能や場所ごとに音を比較できる機能を追加。ヘッドホンやノートパソコンをつなぐだけで利用できる手軽さにもこだわった。
追加した「高臨場感可聴化システム」は、人の頭の動きや向きを追跡してより高い臨場感を得られる。また、VR空間内を自由に動き回って音を聞き比べられるようにした「動的可聴化システム」も搭載。内装の仕上げやレイアウトの検討作業を容易にした。
戸田建設 コンクリ打設口 自動開閉
戸田建設は山岳トンネルの工事用に、覆工コンクリートの打設口を自動で開閉するようにしたスライド型配管切り替え装置「スイッチャーズ」を開発した。重いホースを運んだり、進捗に応じて打設口を開閉したりする負担を解消できる。安全性や生産効率の向上にもつなげる。
同社と大栄工機(滋賀県長浜市)で開発・実証し、有効性を確認した。覆工コンクリートは一般に、セントル(型枠)に複数設けた開口部にホースを設置して打設する。このため打設時にはセントルの下段から上段にホースを移動させながら、打設口を開閉していく手間があった。
同装置を導入することで、打設口の切り替えとホースの配置にかかる時間を人手による約5分から自動の約10秒に短縮できる。高さに応じた打設口の自動切り替えや、自動で締め固める仕組みなどの搭載も検討。打設作業に要する作業員を従来の6人程度から2人程度に減らす目標を掲げる。