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BIMの建築生産プロセスへの活用
建物を構成する空間や要素のデジタル情報を多様なアプローチで活用できるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)への期待が、世界中で高まっている。日本においてもBIMの草創期から十余年がたち、本格的な普及期に入ろうとしている。BIMを適用するメリットは、業務の視点、プロジェクトの視点、社会の視点と多段的である。段階が上がるにつれて競争から協調への意識変化が必要となる。その変化を支えるデータ基盤がBIMである。
BIMの概要と現在の状況
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日本におけるBIMに関する取り組みの経緯
BIMの国際規格(ISO19650-1)の定義によれば、BIMとは「意思決定の信頼できる基礎を形成する設計、建設、および運用プロセスを容易にするための、建設資産の共有デジタル表現の使用」である。その手法として、国土交通省大臣官房官庁営繕部は「コンピューター上に作成した主に三次元の形状情報に加え、室などの名称・面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げなど、建築物の属性情報を併せ持つ建築物情報モデルを構築する」と定義している。
BIM発祥の国である米国や、政策的にBIMに取り組む英国では、主として設計段階における発注者、設計者、施工者、製造者などのコラボレーションを促進して建設プロジェクトの生産性を高める目的で普及してきた。日本では2010年頃からBIMへの関心が高まり、日本建築家協会、国交省大臣官房官庁営繕部、日本建設業連合会、日本ファシリティマネジメント協会が、おのおのの立場と視点からBIMをプロジェクトで利用する際のガイドラインや手引書を発行し、建築業界内でBIMの認知が広まった。19年に国交省住宅局建築指導課の主導で、主だった建築関連団体が委員に名を連ねる「建築BIM推進会議」が設置され、官民一体となって建築BIMを推進している。
建築BIM推進会議の取り組み
建築BIM推進会議では、20年3月に「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン」を公表したほか、建築生産プロセスの各業務(設計、建築確認、調達、維持保全など)で利用する属性情報項目や建設情報分類体系の標準、建築確認検査への適用を検討している。併せて、このガイドラインに沿ってBIM導入の効果検証や課題分析などに取り組む「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」を20年度に開始し、22年度までに55の事業者が採択されている(継続事業を除く)。
これらの事業で確認したBIM活用の効果は、事業報告書にまとめられて建築BIM推進会議のホームページに公開されている。また、官庁営繕部や、建築設計、構造設計、設備設計、施工、中高層木造建築、建材・住宅設備などの各分野で、建築BIM推進会議での議論に依拠したBIM推進の検討が進められている。
BIMの普及の現況
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建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査
21年3月に国交省が公開した「建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査」によると、総合設計事務所(組織設計事務所+ゼネコン設計部)、総合建設会社(ゼネコンの生産部門)、専門工事会社の3業態共に規模の大きな企業ほど導入率が高い。BIMを活用したことによるメリットに関して、「効果が小さい」「デメリットの方が大きい」「その他」と回答したのは、総合設計事務所が14・7%、総合建設会社が11・5%、専門工事会社が18・6%で、どの業態も8割以上がBIMの導入による効果が少なくないと回答している。
社内外におけるBIMのデータ連携は、総合設計事務所は社外よりも社内が多く、総合建設会社は社内外がほぼ同じ、専門工事会社は社内よりも社外が多い。建築生産プロセスが進むにつれてコラボレーションでBIMを利用している状況をうかがい知れる。BIMがさらに普及するカギはデータ連携手法の確立、情報を共有するための標準の整備、多様なアプリケーションやサービスの参入である。
建築生産プロセスに活用するメリット
建築生産プロセスにBIMを適用する最大のメリットは手戻りの削減である。バーチャルリアリティーやシミュレーションを用いて発注者が意思決定することで、実施設計や工事契約後の設計変更が生じにくくなる。
設計者、施工者、製造者(専門工事会社など)のモデルを重ね合わせることで、致命的な干渉問題を設計段階で発見して解消できる。モデルを用いて施工計画や施設管理計画を検討し、施工性や作業性に優れた設計をまとめ上げることができる。手戻りが少なくなることが、労働力不足の改善やワークライフバランスの向上につながっていく。
これらの効果を生かすためには、BIMのデータ構造や多様なソフトウエアの操作に対する一定レベル以上の知識や技術が必要である。こうした人材の育成も産学官で取り組むべき課題である。加えて、実施設計段階のコラボレーションを可能とする契約や制度の整備が急がれる。
課題と今後の展望
BIMの効果を考えるには、ミクロ、ミドル、マクロの視点が必要である。ミクロな視点では、BIMソフトウエアを利用してシングルデータで作業をすれば、業務を大幅に効率化できることである。23年に始まった、国が民間事業者などに補助を行う「建築BIM加速化事業」を活用した地方や中小企業におけるBIMの普及が期待される。
ミドルの視点では、BIMの共有データ環境を利用したコラボレーションでプロジェクトの生産性を向上することである。国交省は、22年12月の第9回建築BIM推進会議で「基本計画・設計・施工の効率化」に向けた25年度の達成目標を提起している。
マクロの視点では、スマートビルディングやスマートシティーでBIMデータを利用して社会の利便性を上げることである。「BIM」「不動産ID」「建物/都市OS」「3D都市モデル」などの連携で多様なサービスが展開される将来に期待したい。
【執筆者】芝浦工業大学 建築学部 教授 志手 一哉
