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最近のねじの力学に関する研究動向
1.ねじの社会的な役割・重要性
複数の部材を接合する方法は多様であるが、その中でもねじによる接合は主に、組み立てと分解が極めて容易である、接合する材料の種類を選ばない、という二つの大きな利点を持つ。ねじの力学に着目すると、ねじと被接合部材に対する外力の作用と、雄ねじと雌ねじの面同士の摩擦の二つが主な着目点になろう。
ねじと被接合部材に対する外力の作用は、被接合部材とねじの機械的性質でおおよそ決まる。ねじの軸方向に作用する外力は締め付け線図で判断できる。外力はねじと被接合部材が分担して受け持つので、ねじを使った継ぎ手は繰り返し荷重が作用するような機械的疲労に特に強い。しかしながら、被接合部材ならびにねじの材料が高分子材料であるなどクリープ変形をする場合には時間の経過に伴って軸力が下がるので、ねじは回転を伴わずに緩む。ねじの軸直角方向に作用する外力は、被接合部材が滑らなければ、被接合部材間や座面の摩擦で受け持つことができる。一方で、これらの摩擦力を超えて部材が滑り始めるとねじ穴がねじの軸と接触するなどして、ねじ穴は変形し、ねじの軸はせん断応力や曲げ応力を受けることになる。
ねじ面同士の摩擦は締め付けトルクと軸力の関係や、ねじの回転を伴う緩みに関わる。ねじ面同士の摩擦係数が高いとねじの回転に必要なトルクが増すので、所定のトルクで締め付けても軸力は低くなる。一方で、ねじ面や座面の摩擦がなければ、ねじは緩み方向に簡単に回転し、緩んでしまう。ねじが緩まないようにねじ面や座面の摩擦力を十分な状態にするにはねじの軸力は高い状態が望ましい。しかしながら、ねじ面同士の摩擦係数はねじ面表面の状態で決まり、微細な傷やバリがあるだけでも摩擦係数は変わる。これがねじの軸力や緩みの把握を難しくしている。
ねじの締め付け状態を簡便に点検する方法の一つとして打音検査が挙げられる。打音検査はハンマーを用いてねじの頭部などを打撃し、その際に生じた打撃音や音響の変化からねじの緩みを検出する手法である。対象を打撃するだけなので、ほかの推定手法に比べると簡便で、その場で判断できるなど検査速度が速いという利点がある。一方で、打撃音を用いて合否判定を下すという定性的な検査であることから、対象が安全であるかどうかを判断するのは検査者の実力や経験に依存する部分が大きく、定量的なデータを記録に残すことが難しい。
2.界面の微視的な力学モデルを用いたねじの剛性評価手法
ねじ部の剛性は溶接部や鋳造品のように一体物になっている場合に比べて低いことが知られている。また、ねじによる締付力(=軸力)とねじ面の表面性状によってもねじ部の剛性は容易に変化することも知られている。各部材の表面は一般的には表面粗さで評価されるマイクロメートルオーダー(マイクロは100万分の1)の微小な凹凸がある。ねじの締め付けによる圧縮応力に応じて、この凹凸が変形するか、凹凸の接触数が変わる。荷重は真に接触している凹凸同士の間でのみ伝達されるので、巨視的な剛性は凹凸の真実接触面積、すなわち、ねじによる締付力と接触界面の表面性状に依存するのである。
したがって、ねじの軸力が下がり、ねじ面における凹凸の真実接触面積が減少すれば、荷重を伝達する部位の総面積が減るので、ねじ部の巨視的な剛性が下がる。打音検査において、打撃したときの対象物の振動特性は、対象物の固有振動数などで特徴づけられる。例えば、固有振動数は対象物の剛性と質量で決まるが、対象の質量が不変であるとすれば、ねじ部の剛性が下がると固有振動数も低下する。すなわち、打音検査によるねじの緩みの検出は対象物の振動特性の変化から判断していると考えられる。
筆者らは図1に示すように接触界面に形成されているマイクロメートルオーダーの凹凸を高さの異なる半球状の弾性突起で近似モデル化した。ここで、弾性突起の頂点高さが正規分布をなし、弾性突起間の接触がヘルツ理論(※注1)およびミンドリン理論(※注2)に従うと仮定する。平均圧縮応力σzはグリーンウッド(※注3)らによって、平均せん断応力τxyはビョークランド(※注4)によってそれぞれ導かれており、式①および式②のように表せる。
ここで、Cは均質化縦弾性係数、Eはヘルツ理論における等価縦弾性係数、Gはミンドリン理論における等価横弾性係数、μは摩擦係数、dは平均圧縮変位、δは平均せん断変位、σは突起頂点高さの標準偏差である。関数Fは突起頂点高さが標準偏差σの凹凸をもつ接触面に生じる歪みの期待値を表している。式①と式②により式④となるので、変位の小さい範囲では摩擦係数を含まない形でねじ部の剛性を評価できるとともに、せん断剛性が垂直剛性によって決まる。したがって、図に示した近似モデルでは垂直方向(z方向)の応力変位関係が分かれば、その微分係数である垂直剛性と、式④によってせん断剛性の両方が求まる。
図2に検証用のM36ボルト・ナットの有限要素モデルを示す。本モデルはM36ボルト、ナット、円筒カラーの三つからなり、すべて鋼製(ヤング率210ギガパスカル、ポアソン比0・3、比重7・86)とした。図中の白線で示したねじ部と座面に式①ー式④の特性を持たせた有限要素を挿入した。図3にこの有限要素モデルを用いた一次から三次までの固有振動数の計算結果を示す。比較のため、実際に打撃試験を実施して取得した実測値と図2における白線部の材料特性を母材である鋼の値に設定した一体物モデルによる計算値も示す。図より、ボルトに与えた締付力の上昇に伴って、界面の微視的な力学モデルを用いた計算値と実測値の固有振動数は増加し、締付力が十分に高いと一体物の計算値に近づくことが分かる。以上より、計算値および実測値ともにボルトの締付力の変化によって、固有振動数が変化することが確認できるとともに、その傾向を式①ー式④の特性を持たせた有限要素を接触面に相当する部分に挿入することで見積もることができた。また、ボルトの締付力が十分にある範囲(本条件では2キロー4キロニュートン以上)では、締付力の上昇に対して、固有振動数の上昇は緩やかであるが、締付力が不足してくると(本条件では2キロニュートン以下)、固有振動数は急激に減少する。このことから、固有振動数から締付力を把握するのは、締付力が十分な範囲では難しいが、締付力がある程度低くなってくる(=ねじが緩んでくる)と可能であると考えられる。
3.今後の課題・展望
ねじの軸力や緩みは現状でも打音検査によって把握できるが、固有振動数をはじめとする振動特性の定量的なデータを利用することができるようになれば、検査者が判断する際の補助をしつつ、記録として残すことが可能になる。
今後の課題として、通常複数のねじやボルトが使われていて、かつ固定条件も多様な構造物をどのようにモデル化すれば有益な情報を得られるかを検討する必要がある。
【執筆者】東京都市大学 理工学部機械工学科 准教授 岸本 喜直
(※注1)ヘルツ理論 球面同士が接触しているときの接触面に対して法線方向の力学的な関係を説明する理論
(※注2)ミンドリン理論 球面同士が接触しているときの接触面に沿った方向の力学的な関係を説明する理論
参考文献
(※注3)グリーンウッド
J.A. Greenwood and J.H. Tripp, The contact of two nominally flat rough surfaces, Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Vol. 185(1970), pp. 625-633.
(※注4)ビョークランド
S. Bjorklund, A random model for micro-slip between nominally flat surfaces, Transactions of the ASME, Journal of Tribology, Vol. 119, No.4(1997), pp. 726-732.


