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特許情報をビジネスに生かすIPランドスケープ
重要性増す企業の無形資産
企業価値に占める無形資産の重要性が増している昨今、企業の重要な無形資産の一つである知的財産の情報を経営・事業に生かすIPランドスケープに注目が集まっている。既存事業の成長、新規事業創出による企業の競争優位性構築に当たって、企業内のさまざまな部門が連携し特許情報やマーケット情報などを複層的に収集し、総合的に分析・活用することが求められている。
部門連携で情報分析・活用
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図1 IPランドスケープの概要
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図2 イノベーションマネジメントに貢献する知財マネジメント活動(ISO 56005:2020をもとに作成)
2017年4月に特許庁から発表された知財人材スキル標準(バージョン2・0)において、知財人材の戦略レベルのスキルとしてIPランドスケープが定義されてから5年が経過した。IPランドスケープとは「経営戦略又は事業戦略の立案に際し、①経営・事業情報に知財情報を組み込んだ分析を実施し、②その結果(現状の俯瞰・将来展望等)を経営者・事業責任者と共有すること」(特許庁報告資料より)であり、図1に示すように特許をはじめとした知財情報に、市場・事業などの公開情報、社内の非公開情報などを総合的に分析して経営・事業戦略の立案や意思決定に役立てる活動である。
経営・事業に知財情報を活用する動きは決して新しいものではない。02年の小泉元首相の知財立国宣言を経て、提唱された経営戦略の三位一体(事業戦略・研究開発戦略・知的財産戦略)の中でも「新事業参入、他社との事業提携等の事業戦略策定にあたり判断材料として知的財産情報を活用」や「共同研究パートナー選定の判断材料として知的財産情報の活用」が言及されている。
最近IPランドスケープに注目が集まっている背景としては、以前に増して企業価値に占める無形資産の比率が高まっていることが挙げられる。決してモノづくり自体の重要性・有用性が減じたわけではない。むしろ、ものづくりの力をドライブさせるために特許やノウハウなどの無形資産に磨きをかける必要性が高まっており、その一つの手段としてIPランドスケープが必要とされている。
世界に目を向けると、中国では国家標準「専利導航指南」を定めて、専利(特許・実用新案・意匠)データと各種データを融合させて意思決定や企業経営、イノベーション創出を支えるというIPランドスケープに近い活動に取り組んでいる。また中国が主導した国際標準「ISO 56005:2020」でも、図2に示すように知財マネジメント活動の最初のステップとして「IPランドスケープ」が位置付けられている。
なお、欧米企業においては、日本のような意味合いでIPランドスケープというキーワードが使われることはまれだが、知的財産が企業にとっての重要な資産かつビジネスツールとして認識されていることからも、日本企業でもより一層の取り組み強化が望まれる。
IPランドスケープのIPは知的財産を意味するが、知財情報で中心となるのが特許情報である。世の中にはさまざまな情報があるが、特許公報に掲載される項目が全世界で統一された構造化データであることに特徴がある。。
特許情報というと企業の研究者・技術者や知財スタッフが利用の主体であると思われるかもしれないが、企業の資源であるヒト・モノ・カネを示す情報源として、さまざまな目的で活用することができる。既存事業をより成長させるために、自社・他社の出願状況比較から自社のポジションを把握し、自社の事業戦略立案へ利用するとともに、特許出願状況や特許以外の情報から競合他社の製品・サービス開発戦略を明らかにしたり、新規事業開発の検討や、アライアンスやM&A候補(ロングリスト)を洗い出す目的で利用することも可能である。
そのため、今まで特許情報を活用してこなかった事業部門や企画、マーケティング、営業部門などの人にも、ぜひともIPランドスケープ活動を通じて利用いただきたい。
事業視点でパテントマップ作成
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図3 IPランドスケープ実現に必要なスキルセット
ビジネスへの特許情報の活用形態には2通りある。一つは特許公報を束として、統計解析やテキストマイニングによって技術トレンドや、競合他社の事業戦略・研究開発戦略を把握する方法。もう一つは特許公報1件1件を読み込んで、アイデア創出や課題解決へ役立てる方法である。
この時に重要なのは、いずれの場合であっても事業へ生かすという視点を見失わないことであり、適宜学術論文やマーケット、ベンチャー・スタートアップ、法規制動向などさまざまな情報を複層的に収集して、総合的に分析しなければならない。
特許情報を分析・可視化する手段として、パテントマップというキーワードを知っている人もいるかもしれない。時折パテントマップとIPランドスケープは対立する概念として説明されるが、決して対立する概念ではなく、むしろIPランドスケープを実践する上で必要不可欠なツールであると考えた方が適切であろう。ただしIPランドスケープを実践する上で、パテントマップを作成する際に、特許分類をそのまま用いるような知財視点ではなく、事業視点で分析の切り口を設定することだ。
また、パテントマップを作成するための専用ツールは必ずしも必要ではない。最近デジタル変革(DX)への取り組みで注目を集めているワークマンのエクセル経営のようにマイクロソフトのエクセルや無料ツールでもIPランドスケープを実践することは可能である。
IPランドスケープを実践し、組織に定着させるために必要なのはツールなどの手段ではなく、むしろ個人個人のスキルセットの明確化と組織風土・体制づくりである。個人の持つべきスキルセットとしては図3に示したようにビジネス力、情報収集・分析力、情報活用力の三つである。
仮に知的財産部門のスタッフであっても、高い専門性が求められる出願・権利化やライセンス・交渉など知財分析業務以外に従事している場合、高いレベルの情報収集・分析力を持つ必要はないが、事業に貢献するための特許ポートフォリオ構築や他社とのライセンス交渉を実現するための情報活用力を磨く必要がある。そしてIPランドスケープ活動を組織的に展開するためには、知財部門だけではなく、ビジネス力に強みを持つ企画、事業、マーケティング、営業部門とのコラボレーションが欠かせない。
またその前提となる情報分析重視・データドリブンの組織風土・体制づくりが必要となる。特許情報をビジネスに生かすIPランドスケープは、1人のスーパーマンが存在することで成し遂げられるのではない。組織一丸となって取り組むことで実現し、企業の競争優位性構築につながる。
【執筆者】
イーパテント代表取締役社長 野崎篤志
