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デベロッパーなどの役割カギ
合意形成へ専門知識活用
マンションは主に鉄筋コンクリート造(RC造)もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)で建設されているため、戸建住宅に多い木造建築と比較して耐久性が高い。
長期的に住環境の堅牢性(けんろうせい)や快適性を維持するには定期的なメンテナンスが欠かせない。「長期修繕計画」を作成し、計画に沿った修繕・改修をすることで資産価値の維持・向上にもつながる。
適切な時期に大規模修繕が行われないと、外壁の?落やひび割れ、鉄筋の露出・腐食、雨漏り、給排水管の劣化などの経年が進み、建物ばかりでなく周辺環境にも悪影響を及ぼすこともある。
国土交通省によると2021年末時点でのマンションストック総数は約656万戸。そのうち老朽化の目安とされる築40年を超えるマンションはおよそ116万戸で、41年には425万戸程度になると予想されている。
耐震性が低い場合、大地震発生時にマンションが倒壊する恐れもある。特に耐震基準の大きな見直しがあった1981年以前に建てられたマンションは、耐震性に不安のあるものも多い。巨大地震発生に備え、これらのマンションの耐震化は喫緊の課題となっている。
老朽化したマンションの再生には主に四つの選択肢がある。①外壁塗装工事、屋根防水、給排水管などの更新工事を行う「大規模修繕」②耐震補強やエレベーターの設置など設備機器を追加する「改修」③建て替え④敷地の一括売却―である。老朽化の程度、耐震性、容積率や高さ制限などの建築的な制約、所要費用と改善効果などから総合的に比較・検討して選択することになる。
22年4月1日時点でマンションの建て替え実績は、建設中の案件を含めて全国でわずか311件となっている(国交省)。立地条件に恵まれた物件は建て替えが進みやすいものの、多くの場合は区分所有者の合意形成や費用負担、所有者の高齢化、容積率など複数の課題を抱えている。
特に合意形成は区分所有者および議決権の5分の4以上の賛成を得る必要があり、住民や管理組合だけで「建替え決議」に至るにはハードルが高い。
こうした課題解決のために専門知識とノウハウを備えるデベロッパーやゼネコン、コンサルタントの役割に注目が集まる。
建て替え知見、研究所に蓄積
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旭化成不動産レジデンスが建て替えを手がけたマンション
旭化成不動産レジデンスはマンション建て替えの事業に2001年から参画し、21年間で47件のマンション建て替えを手がけた。合意形成を積極的に行っていることはもとより、多くの実績の中で蓄積された膨大な経験とノウハウを持つ。
あるマンションは相談時点で築後43年が経過していた。建物の耐震性に問題がある可能性が高かったほか、漏水の問題が顕在化しており、建物の一部でコンクリートの剥落も見られる状況だった。規約がない、管理組合が設立されていない、修繕資金の積み立てがないことが、こうした老朽化の原因となっていた。
そのため規約の設定と、建て替えまたは修繕の検討を並行して進めた。具体的にはマンション標準管理規約をベースにして、このマンションで必要と思われる事項を網羅した規約案を作成。区分所有者集会で承認の決議をした。これと同時に「再生の方向性」についてのヒアリングやアンケートを行ったところ、建て替えを進めたいという意向が大勢を占め、具体的な計画を進めた。
積極的な合意形成の結果、規約の設定から1年後には「建替え決議」が可決。決議から2年後には建物の解体工事に着手することができた。
建て替えは区分所有者集会の5分の4で決議することができるが、一方で区分所有者の数だけ解決すべき課題があるといっても過言ではない。数多くの建て替えを経験している同社は、その経験の数だけ課題解決のためのノウハウも蓄積されている。
このマンションでは連絡の取れない区分所有者や、家族で意見が異なるなど、まとまりにくい区分所有者もいた。しかし、同社の知見と粘り強い個別説明対応の結果、再建建物の着工に至った。
なお同社の最大の強みは、マンション建て替えについてさまざまな知見を、業界で唯一の存在である「マンション建替え研究所」に蓄積していることだ。ここで蓄積した経験やノウハウが次の建て替えで力を発揮している。
地区計画で容積率など緩和
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多摩川住宅で先陣を切って建て替えが進むホ号棟(シティテラス多摩川の完成予想図)
長谷工コーポレーションは今年8月に「多摩川住宅ホ号棟」の建て替え工事に着手した。同社はこれまで首都圏、近畿圏、東海圏で計44件のマンション建て替えに携わっている。
1968年に建てられた「多摩川住宅」は東京都住宅供給公社が手がけた初の大規模団地で、東京都の調布市と狛江市にまたがる約50ヘクタールの広大な土地に約1800戸の賃貸住宅と約2100戸の分譲住宅の中層マンションが立ち並ぶ。商業施設や公園、運動施設、教育施設も整備されている、ひとつの「街」といえる大きな団地だ。
築40年を迎える辺りから、建物の老朽化や設備の経年劣化が目立つようになり、住民の高齢化が進む中、エレベーターなどの設備が整っていないという問題も出てきた。
建て替えの検討で障害となったのが容積率だ。周囲の容積率は200%だが「一団地の住宅施設」の規制により、60%という容積率だった。そこで、2009年に多摩川住宅全体で「多摩川住宅街づくり準備会」を立ち上げ、容積率を増やして建物を建て替える、新たな街づくり案を調布市と狛江市に提出し根気強く交渉。17年に将来の多摩川住宅を築く指針となる「多摩川住宅地区地区計画」が決定し、容積率も170%までアップが認められ、ホ号棟は380戸の住宅を建て替え、905戸まで増やす計画となった。
長谷工は12年からホ号棟の建て替え検討を支援。事業協力者として建て替え計画にも携わった。「建て替えは長期の仮住まいと2度の引っ越しが障害となるため、多摩川住宅内での仮住まいを探すお手伝いを心がけた」と建替・再開発事業部の今井文雄部長は話す。
同物件で長谷工は設計・施工も請け負う。「お住まいの方のニーズにより30平方メートルから80平方メートルと広さにバリエーションを持たせた住戸や、多摩川が近い立地特性から自然災害を想定し防災にも配慮した計画とした」(今井部長)。20年に団地一括決議が成立、25年には再入居が始まる予定となっており、権利者も心待ちにしている。完成から半世紀を経て、多摩川住宅は新たな街への再生の第一歩を踏み出した。
