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新しく一戸建てを建てる際に考えたい~ 快適なテレワーク空間のつくりかた
コロナ禍で急速に普及したテレワークは、いまや働き方のスタンダードになりつつある。テレワークという言葉は本来、オフィス以外の場所で情報通信技術(ICT)を使って仕事をすることを指すのだが、実際には自宅で行われることが多いため、テレワーク空間とは「住宅」と考える人も多いだろう。これからの住宅には、オンとオフ、両方を充実させるための新たな視点が必要だ。ここではインテリアと健康「アクティブ・ケア」の視点から、テレワークを視野に入れた住宅計画のポイントについて紹介したい。
ストレス・刺激 軽く
「家は寝に帰るだけだから」。以前はこんなセリフも聞かれたが、コロナ禍で一変した人は多い。自宅は仕事とプライベート、どちらにも大切な場となった。特に健康面から注目すべきポイントは滞在時間の増加だ。これまで短時間であれば問題なかったはずの環境で長時間過ごすようになった結果、首や肩、腰などの痛みが辛くなり病院に駆け込んだ人もいる。
これからの住宅には、身体に負担をかけないという「アクティブ・ケア」の視点が必要だ。アクティブ・ケアとは、私たちが過ごす生活環境(=インテリア)を整えることで、ストレスや刺激を軽減し、人を健康へと導く、健康管理の新しい考え方である。
テレワーク空間に必要な明るさ
厚生労働省のガイドラインによると、テレワーク作業環境に必要な明るさは300ルクス以上とされている。ただ300ルクスがどの程度のものなのか、把握していない人も多いのではないだろうか。私が目安として紹介しているのは、夜間の通勤電車、比較的空いている状況(人影ができない)で、座って本を読むときの手元の明るさだ(*筆者計測値)。
明るさには慣れが生じるため、光不足に気づかず、知らず知らずのうちに目に負担をかけている場合がある。目安をもとに同じ本を読み比べするなど、自宅の明るさを一度チェックしてみよう。
自然光はメリットがたくさん
室内には自然光をできるだけ取り入れよう。日中、照明なしで明るさが確保できれば省エネにもつながるが、メリットはそれだけではない。サーカディアンリズム(体内時計)を整えるために必要な光に触れる機会をつくってほしいのだ。
これまでは通勤によってほどよいタイミングで太陽光を浴びる習慣があった。しかし今はどうだろう。実際に、遮光カーテンを閉めっぱなしで終日室内で過ごすテレワーカーもいる。これは睡眠の質にも影響をもたらすため、健康面で心配な状況だ。
体内時計が何らかの影響で狂うと、寝つきが悪くなり、朝になっても疲れが取れないこともある。実際に、私がテレワーカーへインタビュー調査した中でも、テレワーク後から不眠を感じるようになった人がおり、光環境に問題のある状況は少なくない。
日中しっかりと光を浴びることで、神経伝達物質のセロトニンが活性化し、夜になるにつれて、睡眠を促すメラトニンが分泌され、睡眠へのスイッチがスムーズに入るという。朝日―太陽光―夕日という自然に寄り添う光環境で過ごすことは、パフォーマンス向上にも影響する。室内に自然光を取り込むだけでなく、季節によっては、テラスをテレワーク空間として利用するのも良いだろう(写真1)。
調光調色機能を活用する
LED照明の普及により単一光源で調光と調色、両方の機能が取り入れやすくなったことは、健康面への大きなメリットだと感じている。調光調色機能を使い、仕事時間は白色系の光で明るさを確保し、夕暮れからはオレンジ系の穏やかな光でリラックス空間をつくろう。
テレワークではオンオフの切り替えが難しいと悩む人は多いが、光の色、明るさを変えることによって、空間にイメージのメリハリをつけることができる。同一空間に昼と夜の顔をつくることは、調光調色を活用すると意外と簡単に実現できる。
片頭痛で光過敏のある方にも調光調色機能は重宝する。刺激が和らぐ低照度、低色温度(オレンジ系)の光、また体調に合わせた調整も手軽にできる。
ある方は、引っ越し先の家の照明が電球色、内装が茶系に変わり、辛かった片頭痛症状が和らいだという話を教えてくれた。当初はその理由がわからなかったそうだが、ある時私が学会発表した「片頭痛ケアインテリア」の記事を見て、合点がいったそうだ。
片頭痛は仕事のパフォーマンスを左右する「プレゼンティーイズム(※)」にも影響を与える大きな要因であるため、テレワーク空間を整えるうえで、重要な課題なのだ。光過敏の方にも、ぜひ体調に合わせて光を調整できる環境をつくってほしい。
(※)健康問題をもちながら勤務している状態を意味する言葉。「アブセンティーイズム(欠勤)」より、労働生産性の損失が大きいことが報告されている。
テレワーク空間こそ間接照明を
光源が直接目に飛び込まない照明計画は、負担軽減につながると考えよう。また照明とは適度な距離を保つことも重要だ。同じ光源でも距離によって目への刺激、ストレスの度合いも変わる。スマートフォンやパソコンモニターから、40センチメートル離れることが推奨されているのもその影響を受けにくくするためだ。
そもそもオフィスと住宅では、一般的に天井高が違う。つまり自宅では照明と人との距離が近いのだ。光源を見せない間接照明はテレワーク空間におすすめの手法である。
ダウンライトよりも手元に影をつくりにくいし、パソコンの背景となる壁に間接照明を取り入れると、画面と周囲との明暗差(コントラスト)をなくし、眼精疲労の予防にもつながる(図1)。間接照明は光を天井や壁に向けることでも実現できるが、空間全体から考えるためには新築時は絶好のチャンスだろう。
内装材の反射率の活用
明るさ不足の部屋には、内装色が解決の一助になる可能性がある。白い内装と黒い内装の部屋を比較した場合、反射率は約16倍の差が生じる(図2)。つまり同じ照明であっても、色の違いで明るさ感が変わるのだ。室内を明るくしたい場合は、反射率の高い白色系や明るい色の内装材をより多い面積、壁や床などに取り入れよう。
収納でスタンディングワーク
リモート会議と会議の間に時間がなく、一瞬の合間をみてトイレに走る方は多いようだ。1時間ごとに10-15分の休憩を取るように推奨されているが、実際には難しい現実もある。ここで提案したいのは、座りっぱなし予防のための仕掛けだ。
事例(写真2)のように、壁面収納をスタンディングデスクとして活用してはどうだろう。天板高さ1メートル、ハイカウンターのようなイメージだ。ちなみに自宅では立位の時間を増やすだけで消費エネルギーはアップする。
今、メタボ対策の一つとして注目されているNEAT(非運動性熱産生)である。ノート型パソコン程度の重さなら、ちょっとしたカウンター造作とコンセントがあれば、スペース的には十分だ。廊下やLDの一角など、これからは家じゅうをテレワーク空間の対象として考えた方がいいだろう。
日本の住宅は世界的に見て、決して広いとは言えないが、コンパクトでも快適なテレワーク空間はできるはずだ。私は快適な空間の本質的な役割は、健康な暮らしを下支えすることにあると考えている。テレワークという働き方が定着し、新しい社会が醸成するためには、住まいづくりの新しい視点が、カギを握っていることは間違いないだろう。