-
業種・地域から探す
脱炭素社会の実現に向けた製品のエッジ品質を考慮したバリ取り・エッジ仕上げ技術
「事前・当座・事後」の対策
-
製品の生産の流れとバリ対策
製品の生産の流れを広義に捉えると図1に示すようになる。バリ対策は設計段階において部品の機能を満足するエッジ品質の精度設計を行い、バリの残留による機能低下について考慮しなければならない。
具体的には、製品の全般的な機能・性能設計を終えた段階から部品展開を行い、それらの個々の部品について「事前対策」としての機能・性能設計を進める。この段階で生産技術担当者との十分なコミュニケーションを図りながら生産設計に至るまでの協議を行い、最終的なエッジ品質の決定を行うのである。
その後、「当座対策」としての工程設計を行い、バリを最小にする抑制策を加工方法、加工条件など後述の諸要因から検討する。その結果としての「事後対策」をバリ取り・エッジ仕上げ技術の観点から検証することによって、設計技術担当者の指示するエッジ品質を保証することになる。
さらに部品の組み立て段階において設計されたエッジ品質が、組み立て性に対してどのような影響を与えるかも精査しなければならない。
十分なコミュニケーションを
-
バリ抑制に対する要因(切削油技術研究会) -
工作物材質の弾塑性的性質とバリ生成の関係
「当座対策」と「事後対策」は、生産設計と工程設計におけるエッジ品質を保証するためのバリ対策が必要となり、主として生産技術担当者の仕事となる。しかし最終的には、製品が完成して顧客の満足する機能・性能を持っているかの検査段階とクレーム処理をも含む営業担当者との十分なコミュニケーションが重要となることは言うまでもない。
部品の機能・性能に対応したエッジ品質を達成するため、バリ取り・エッジ仕上げ技術を選択する前に、後処理しやすいバリ形状や寸法に抑制しておくことが大切になる。その抑制策に対する要因をまとめると図2に示すようになる。
これらの要因の中で、工作物材質の弾塑性的性質がバリ生成に大きな影響を及ぼすことは明白である。バリ生成の大きさに対して示すと図3のようになり、工作物材質の考慮によってバリレス加工を実現できる。
高強度材料開発とバリ抑制策10項目
-
新開発の焼結材料におけるクロス穴のバリレス加工例(住友電工)
このような考えに基づいて、住友電工では自社の技術を生かして粉末材料を均質・高密度に高圧成形して高強度化した材料を新たに開発している。この材料を高速切削加工しても図4に示すようにバリレス加工を実現することができ、切削加工後に焼結を行うことにより金型造形を超えた形状精度の高い焼結部品を達成している。
材質としては、CrーMo系、NiーCrーMo系の鉄系合金はじめSUS304、SUS316、SKD61、Tiー6Alー4Vなどが種々開発されている。
そのほかバリ抑制策として図2に示すようにさまざまの要因が挙げられるが、主なポイントとして10項目ある。
①ツールパスを変更することによって生成するバリ形態をロールオーバーバリからポアソンバリに変える。
②加工する工作物端面をあらかじめ面取りを施すなどエッジ形状を鈍角に処置する。
③切削条件(切削速度、切り込み、送り)の変更によって切削抵抗を減少させる。
④工具形状(すくい角、ノーズR、切れ刃先端角、ねじれ角)やコーティングを含む工具材質を変更する。
⑤総形バイトを採用する。
⑥削り、重ね削り、反転切削あるいは振動切削法などの加工法を検討する。
⑦切削油剤の変更や高圧クーラントの採用を行う。
⑧図2に示したように工作物材質の硬度変更や工作物表面の熱処理を行うことによって弾塑性的性質を変化させる。
⑨切削加工法から研削加工法への転換を検討する。
⑩チップレス加工法(鍛造、鋳造、焼結、放電加工、プレス加工)への変更を検討する。
後処理工程でなく最終工程として
以上、生成バリの抑制策について述べた。バリ取り・エッジ仕上げ工程は、コストのリスク上からも上位に位置するという認識を持ち、従来の後処理工程ではなく機械加工工程中における最終工程として実施するトータルな考え方が脱炭素社会の実現に向けて必要になる。
筆者らは、これまで砥粒(とりゅう)加工学会バリ取り加工・研磨布紙加工技術専門委員会およびBESTーJAPAN研究会においてバリ取り加工・エッジ仕上げ技術の向上と発展に努めてきた。このたび、これらの組織をいったん解散して、本業界のさらなる発展とわが国のモノづくりに貢献するために、2022年中に新しい組織、仮称「(一社)バリ取り・表面研磨・洗浄協会」として再結成する準備を鋭意進めている。読者諸氏にはこの新たな挑戦にご期待いただきたい。
【執筆】関西大学名誉教授/学校法人関西大学顧問
砥粒加工学会バリ取り加工・研磨布紙加工技術専門委員会委員長
BEST―JAPAN研究会(バリ取り表面仕上げ技術研究会)会長
北嶋 弘一