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トヨタ自動車/ウーブン・プラネット・ホールディングス
審査委員会特別賞 高度運転支援システム「Toyota/Lexus Teammate Advanced Drive」 トヨタ自動車/ウーブン・プラネット・ホールディングス
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高度運転支援システムを搭載した燃料電池車「MIRAI」(右)と高級ブランド「レクサス」のセダン「LS」
トヨタ自動車と、自動運転やスマートシティーなどの先進技術を手がけるウーブン・プラネット・ホールディングス(東京都中央区)は、自動運転技術を活用した高度運転支援システム「トヨタ/レクサス チームメイト・アドバンスト・ドライブ」を開発した。トヨタとして自動運転技術の実用化は初めてだ。高速道路など、特定条件下でハンドルから手を離して運転できる「レベル2」に対応する。
同システムは高精度な自己位置推定や周辺の環境認識を元に、高速道路や自動車専用道路で車線変更や追い越し、分岐などの操作を支援する。同一車線で前の車との車間を維持しながら手放しで走行することも可能だ。2021年4月に発売し、高級車ブランド「レクサス」のセダン「LS」と、第二世代の燃料電池車「MIRAI(ミライ)」に搭載している。
システムを構成するセンサーには従来の運転支援システムで使われているレーダーやカメラのほか、望遠カメラ、物体との距離を測る高性能センサー「LiDAR(ライダー)」を追加した。車両の周囲360度を認識する。主要な演算処理を行う電子制御ユニット(ECU)には、従来比で約?倍の演算能力を持つ中央演算処理装置(CPU)を搭載。人工知能(AI)による画像認識を行う高性能な画像処理半導体(GPU)も採用し、高度な環境認識や動作判断ができるようにした。
自動運転の市販化プロジェクトが始まったのは、14年1月。こだわりぬき、難しい点でもあったのが「トヨタらしい自動運転とは何か」を突き詰める作業だった。トヨタが目指すのは「交通事故ゼロ」の社会。自動運転で避けられる事故は増えるかもしれないが、完璧な技術はなく、一定の割合で事故が起きる懸念は否定できない。同社の自動運転・先進安全開発部の川崎智哉主査は「ジレンマがあった」と明かす。
自動と言うと機械が全てを担う印象があるが、「人と機械、それぞれに得意分野がある」(川崎主査)。それなら、あえて“運転支援”とした方が安全・安心な機能を提供できるのではー。そこで15年に人とクルマがパートナーとして走る「モビリティー・チームメイト・コンセプト」をトヨタの自動運転の考え方として策定。これに基づき実用化に向け動きだした。
開発で注目したのがドライバーにシステムを過信させず、それでも安全に運転を楽しむという点だ。貢献する大きな要素の一つに、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を据えた。大型のヘッドアップディスプレーによる分かりやすい表示や、運転中のドライバーを把握するモニターなどを採用。また乗員の安心感にも配慮した。
例えば大型車を追い抜く時は避けるように車線の右側に寄り、合流する車を検知すると早めに減速するなど「自車だけでなく他車も含めて交通流全体をスムーズにすることを意識した」(川崎主査)。
新興メーカーではない既存の自動車メーカーとしては初めて、無線通信経由で機能をアップデートする「OTA(Over The Air、オーバー・ジ・エア)」も実現した。川崎主査は「車を長く使ってもらい、楽しんでもらうためにも『モビリティカンパニー』としてOTAが必要だと判断した」と、意図を説明する。
すでに発売後7カ月で2回のソフトウエア更新を実施。隣車線の車のウインカーの点滅から割り込みを早期に判断する機能や、車速の上限引き上げなど、その数は約50項目にも上る。これまでは車開発のタイミングでしか更新できなかったが、川崎主査は「リアルタイムにできる。顧客からの反応もうれしく、技術者冥利(みょうり)に尽きる」と喜ぶ。
一方で期限を区切らず継続的に更新を続ける必要もあるため、現在はソフト主体の開発体制のあり方などを検討中だ。
16年から具体的な開発が始まった自動運転技術の実車搭載プロジェクトは、おおむね当初の企画通り進み、自動運転のレベルにこだわり過ぎない「トヨタらしい」技術につながった。ただ初めての挑戦だけに、乗り越えるハードルも多かった。その一つが、開発から約2年たった頃に搭載を決めたAI画像認識機能だった。
元々はLiDARを主センサーに据える予定だったが、競合他社の動きなどから「AIによる画像認識が一つのキーになる」と確信。そこで新たにECUと画像センサーを追加して技術に対応するよう仕様変更に踏み切った。
それまで実車へのAI搭載事例はなく、「部品搭載スペースなどが制限される中、性能を維持しながら計算力を保つのは大変だった」(川崎主査)。仕入れ先と協力し、社内勉強会も重ねながら3年程度で開発。川崎主査は「短期間に実現できたことは大きな自信になった」と振り返る。
今回のシステムは、トヨタが目指す「交通事故ゼロを実現するための自動運転」の一里塚となった。川崎主査は「安全技術は普及させてこそ」と力を込める。車開発と社会インフラ、技術に対するユーザーの理解といった“三位一体”の活動を意識しながら、先進開発を普及に落とし込んでいく。