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農薬・科学メーカー 技術革新にアクセル
欧米や日本などで持続可能な食料生産戦略が始まっている。農業分野では、環境負荷の低減と同時に食料の増産を実現する必要があり、大きな技術革新が求められる。二酸化炭素(CO2)排出の削減に加え、化学農薬のリスク低減が重要なテーマとなる。国内の農薬・化学メーカー各社は今後の農業を支える革新的な農薬の開発に挑む。
持続可能な食料生産実現へ
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三井化学アグロのテネベナール(ブロフラニリド)は本格拡大期に
持続可能な食料生産への転換を目指し、2020年代に入って欧州や米国、日本で新たな戦略の公表が相次いだ。日本は「みどりの食料システム戦略」で50年までに農林水産業のCO2排出ゼロ化や、リスク換算で化学農薬の使用量半減などの目標を打ち出した。生態系への影響を減らし、農地を持続的に利用して安定した食料生産を続ける狙いだ。
社会情勢の変化は農薬へのニーズを変え、天然物由来の農薬への期待が高まっている。
住友化学は微生物農薬や植物成長調整剤など「バイオラショナル」製品群を早くから強化し、同分野をリードしてきた。21年7月に米国で農薬登録を取得した摘果剤「アクシード」は、長年の研究開発を生かした期待の製品だ。果樹において未熟な果実の一部を落果させて間引き、残った果実の品質を高める。手作業中心の摘果作業を置き換える。
天然物由来農薬は化学農薬に比べ開発や登録にかかる時間やコストが小さくすむことも魅力。三井化学や日本農薬も強化している。
化学農薬分野では革新的な大型製品の市場投入が相次ぐ。三井化学のチョウ目などの害虫向け新規殺虫剤「テネベナール(ブロフラニリド)」は、本格拡大期に入った。生命活動の維持に必要な神経信号を遮断し、全身を麻痺(まひ)させるという新しい作用機構で、抵抗性害虫にも効果を示す。独BASFと協力し、世界展開する。
住友化学はここ数年で最大の製品となる除草剤「ラピディシル」の農薬登録を米国やカナダなどで申請した。速効性に優れ、少ない薬量で効く。北米や南米で広がる、作物播種(はしゅ)前に土を耕さない不耕起栽培に適している。将来、農家の購入額として年1000億円規模の販売を目指す。
日本農薬は新規水稲用殺虫剤「オーケストラ」を拡販する。ウンカ類やツマグロヨコバイに防除効果があり、海外飛来や抵抗性害虫にも有効。天敵や有用昆虫に対する影響が小さく、哺乳類や水生生物に対する安全性が高いとされる。国内だけでなく、主要市場のインドでも原体から一貫生産する。
バイオ医薬関連に積極投資
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東ソーは分離精製剤の生産能力を増強する
化学業界ではバイオ医薬関連の事業拡大が活発化している。
製造プロセス分野では東ソーが約160億円を投じ、分離精製剤の生産能力増強を決めた。南陽事業所(山口県周南市)で現行比約70%増強する。バイオ医薬の精製工程向けの製品として抗体医薬や核酸医薬の精製に高い分離性能を持ち、幅広く使われ、高いシェアを持つ。バイオ医薬品の新規開発や製造への投資拡大に伴う需要の急増に応える。
旭化成はバイオ医薬の製造工程でウイルスを除去するフィルター「プラノバ」の組み立て工場を宮崎県延岡市に新設し、23年度中の完成を予定する。
三菱ケミカルグループや住友化学は、細胞培養に関する幅広い技術を持つ京都大学発スタートアップ企業のマイオリッジ(京都市左京区)へ出資し、提携した。細胞培養は医薬品の研究開発時の利用に加え、将来は再生・細胞医薬の成長が期待される。バイオ医薬関連の中で注目分野の一つだ。提携を通じ、住友化学は住友ファーマと取り組む再生・細胞医薬分野の事業化を推進する。
三菱ケミカルグループは細胞培養周辺材料の技術力や課題解決力を高める。グループ全社の研究開発部門や田辺三菱製薬、ベンチャー連携を通じて細胞培養関連に取り組んでおり、全社で強化していく考えだ。
また、住友化学や三井化学、UBEは核酸医薬関連で成長を目指す。核酸医薬関連の受託製造では日東電工がリードしており、化学メーカー各社は独自技術を生かせる分野を開拓する。
日光ケミカルズは植物由来のスクワランで、医薬品添加物の国内認可を20年9月に取得し、再拡販を進めている。同社の「NIKKOLシュガースクワランM」は、医薬部外品市場向けに国内外で豊富な採用実績を持ち、手指消毒剤の保湿成分として引き合いが増えている。
医薬関連は景気変動の影響を受けにくいことに加え、バイオ医薬などの新市場向けに材料需要も盛り上がっている。製薬に近い領域では、富士フイルムやAGCがバイオ医薬の開発製造・受託(CDMO)事業へ巨額投資を進める。素材の技術革新が市場成長へつながることが期待される。
