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建設技能労働者の処遇改善と建設キャリアアップシステムの役割
建設キャリアアップシステム(CCUS)は、建設技能労働者の処遇改善や生産性向上を目的に、建設技能労働者の保有資格や社会保険加入状況などの基本情報を登録するとともに、日々の就業履歴などを蓄積するシステム。国土交通省や関係業界団体など官民一体となって推進している。2022年7月末で技能者95万人、事業者12万社を超えるユーザーが登録し、就業履歴の蓄積も着実に進んでいる。ここではCCUSの導入経緯や意義、役割などについて紹介する。
横断的に就業履歴を蓄積 官民一体、着実に導入進む
建設業界の人手不足が深刻化する中、担い手の確保・育成を目的に、技能者の適正な評価と処遇、生産性の向上などを図るため、15年8月、国交省や関係機関などにより、CCUSの構築に向けた官民コンソーシアムが設置された。同コンソーシアムにおける制度創設の検討を踏まえ、運営主体を建設業振興基金とし、19年4月から本格運用を開始した。CCUS導入には、次のような建設生産の特徴や建設技能労働者の働き方が背景にある。
建設生産の特徴と建設技能労働者の働き方
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建築キャリアアップシステムの概要
建設業は点在する現場ごとに、その都度必要な体制を組織して対応する生産システムを基本としている。需要の繁閑に対応する必要性もあり、各企業においては自前の生産能力は一定程度にとどめ、生産工程の相当程度を下請け企業にアウトソーシングすることが通例である。下請け企業もさらにアウトソーシングすることから、時に行き過ぎた重層化にもつながっていると言われている。
また19年度「建設業構造実態調査」(国交省)で「専門工事企業の元請け・上位下請への専属率」を見てみると、上位1社への専属率70%以上の企業は2割程度にとどまっている。各下請け企業も特定の元請けや上位下請けのみと取引しているわけではないことが数値上も見て取れる。
このような産業構造のため、特に生産の現場を支える建設技能労働者は必然的に企業横断的、現場横断的、流動的に働く就労者が多くなっている。統計上はいわゆる「正社員」に区分されていても、現場での就労の形態は、「雇用」(労働者)または「請負」(一人親方)が判然としないケースや、賃金形態も日給月給制が過半を占めるなど、仕事の多寡が収入に直結するような働き方となっているケースも多い。
このような働き方に対応するための仕組みとして、建設業退職金共済制度(建退共)があるが、CCUSも同様の取り組みとなる。複数の元請けや上位下請け、さまざまな現場で流動的に働く建設技能労働者の就業履歴などを関係者が協力して登録・蓄積し、処遇改善につなげていく。
建設技能労働者の処遇改善のための基本的道筋とCCUS
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建築技能労働者処遇改善とCCUSをめぐる概念図
処遇改善のために最も重要なのは、賃金の原資となる労務費をしっかりと確保することだ。従って、下請けが元請けに、元請けが発注者に、それぞれ必要な労務費を確保できるよう、適正な契約のもと、所要経費を「転嫁」していくことが不可欠。すなわち、技能者の能力向上など担い手育成に取り組み、高い施工能力を有する優良な企業が適切に評価され、受注機会の増加、請負単価のアップにつながり、それにより処遇改善の原資が確保されるという好循環が実現することが望まれる。
処遇改善のためのもう一つの重要な柱は、その原資を得るための「生産性の向上」だ。投入労働量に対する生産量や付加価値の割合である労働生産性は、現場単位、企業単位、業界単位、市場単位のミクロからマクロまでの範囲まで考えられる。i-Construction、BIM/CIMといった取り組みはもちろんのこと、公共発注者により進められている平準化の取り組みなども、稼働率の安定・向上を通じた生産性向上のための取り組みといえる。
今後は建設DXにより、フロント部門だけでなくバックオフィス部門も含めた、業界全体・業務全体を視野に入れた、生産性向上の取り組みが一層重要になってくる。
官民でのCCUS活用の広がり
建設技能労働者の処遇改善の促進のため、CCUSを活用して、必要経費転嫁につながる環境整備や生産性向上の取り組みが官民で進展している。
国など関係機関においては、建設技能労働者能力評価(レベル判定)、専門工事企業施工能力評価や経営事項審査、公共工事におけるモデル工事などによるCCUS活用などが進められている。これらはCCUSに登録し、建設技能労働者の育成に熱心に取り組んでいる企業の受注機会の拡大につながるものであり、処遇改善のための道筋の一つである転嫁(好循環)促進のための環境整備であると言える。
特に経営事項審査については、CCUSに事業者登録をするだけでなく、各現場において就業履歴を蓄積するために必要な措置(カードリーダーの設置など)を講じていることを加点要件とし、来年1月の施行に向け準備が進められている。
また民間部門においては、入退場管理や施工体制台帳、作業員名簿など安全書類の作成などにおいて、真正性の一層の向上を図りつつ、現場業務の効率化を進めるため、CCUSとの連携による民間サービスの利用が拡大している。このように、処遇改善のもう1つの道筋である「生産性向上」においても、CCUSの重要性が高まりつつある。
これに加え、一部元請け企業においては、CCUSカードのレベルに応じた手当の支給や、独自ポイントの付与など直接的なメリットを提供する取り組みも広がりつつある。また建退共においては、昨年度から電子申請の仕組みが導入されているが、より簡易な手続きで退職金関係業務を実施できるよう、本年夏からはCCUSの就業履歴を建退共の電子申請に直接活用できるようにするなど、本格的な連携が始まっている。
おわりに
CCUSは処遇改善実現のため、建設DXの一翼を担い、建設生産における官民共通のインフラ(プラットフォーム)としての役割を果たしていくことが必要であり、?年から官民一体で進めてきた社会保険加入促進活動の延長線上にもあるものと考えている。
建設業振興基金は、関係するサービスを提供する民間事業者や国・地方公共団体、関係機関・企業との連携を一層強化し、現場でCCUSの効果を実感できる取り組みを進めるとともに、登録や現場運用に当たってのサポートや利便性の向上に努めていく。
【執筆者】建設業振興基金 理事 建設キャリアアップシステム事業本部 本部長 長谷川 周夫