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落雷からデジタル化社会を守るーBCPの観点からも重要
直撃雷から守る
雷害は大きく「直撃雷」と「誘導雷」に分けられ、両方の対策が必要になる。直撃雷は一般的に言われる落雷で、建築物や樹木、人などの物体に直接落ちる現象。建物の損傷や火災の原因になり、人命を奪う危険性もある。
建築基準法では高さ20メートル以上の工作物・建築物に、消防法では危険物を取り扱う建物やタンクに避雷設備を設置することが義務づけられ、保護方法については日本産業規格(JIS)で定められている。
建築物を直撃雷から守る雷保護システムには、外部雷保護システム(外部LPS)と内部雷保護システム(内部LPS)がある。外部LPSは①受雷部システム②引き下げ導線システム③接地?の3要素で構成される避雷設備。受雷部である避雷針が直撃雷を受け、引き下げ導線で雷電流を接地線へ流すことで建築物への雷害を回避する。
一方、落雷時に引き下げ導線に流れる雷電流によって外部LPSと建物内部の導電性部分(金属体)との間にできる電位差を低減し、火災や爆発を回避するのが内部LPS。建物内の金属部分を導体または避雷器(サージ保護デバイス=SPD)で接続する雷等電位ボンディングを行う。
誘導雷から守る
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雷サージの侵入を記録し、通知を送るデモ(「JECA FAIR2022」音羽電機工業ブース) -
電源コンセント用のSPD(「JECA FAIR2022」昭電ブース)
雷の年間被害額は、工場が操業停止するなどの二次災害を含めて1000億円から2000億円と推定されており、その原因の多くが誘導雷によるものである。
誘導雷は落雷が起こった周囲の電線などに“雷サージ”と呼ばれる過電圧・過電流が発生すること。雷サージが電源線や通信線などを経由して建物内部に侵入して、電子機器や通信機器の破損、誤作動を引き起こす。その影響範囲は広く、雷鳴が聞こえる範囲には危険性があり、気づかないうちに被害に遭っていることも少なくない。
最近の電気製品は低電圧化しているため、低いレベルの雷サージでも誤動作や故障を起こしやすい。また電源、通信、回路のネットワーク化で雷の侵入経路が多様化し、雷被害が増加している。対策には通信線を光ファイバーにするなど絶縁化する方法や、雷サージの侵入経路ごとにSPDなどを取り付ける方法が取られている。
SPDは雷の電流を大地に流すとともに雷の異常電圧を電子機器の耐電圧以下に抑えて故障を防止する。機器や回線系統ごとに多くの種類があり、適切なものを選定する必要がある。国際電気標準会議(IEC)の規定に従ってJISも整備され、それに基づいた製品開発が行われている。
近年、監視カメラや遠隔管理などの普及により、通信用SPDの需要が増加している。次世代通信システムに対応した製品や劣化が遠隔でもわかる製品、異常電圧を検知した際に通知するサービスの開発なども進んでいる。
耐電圧が弱い機器やサーバーなど、より重要な機器に対しては、SPDよりも保護性能の高い耐雷トランス(サージ・アイソレーション・トランス=SIT)で異常電圧を遮断して電子機器を保護する。
日本雷保護システム工業会によると、「SPDを設置しているにもかかわらず、適切に設置されていないために被害に遭うケースも少なくない」という。また避雷設備は一度取り付ければ良いのではなく、日頃のメンテナンスが欠かせない。被害の最小化に向け、“正しく設置して適切な管理をする”ことが大切になる。
同工業会では会員企業を対象に「雷保護技術者資格認定制度」を設け、技術講習と認定試験を毎年実施。技術者の技術力と知識の維持向上を図っている。
一方、在宅ワークが増え、会社と自宅間の情報伝達がインターネットを通じて行われている現状では、住宅でも対策を講じることが望ましい。簡単に対策できる電源コンセント用のSPDなども販売されているので、あらかじめ対策しておくと安心できる。
文化財建造物を守る
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文化財建造物の適切な雷保護手法を体系化した
今後、雷から保護する必要がある対象としては、脱炭素社会に向けて電気自動車(EV)や再生可能エネルギー分野が増加すると考えられる。一方で、対策が十分ではない分野として文化財建造物が挙げられる。
文化財建造物では昔から頻繁に雷害が発生している。建築材料に可燃性材料が多く用いられていることから火災焼失のリスクが高い上に、避雷設備の設置が十分ではないところが多い。近年は防犯関連機器などが設置されていることから、関連設備の保護も必要になっている。
そうした中、日本雷保護システム工業会は電気設備学会と共同で、2012年から「重要文化財等の雷保護調査委員会」を組織して雷害の実態を調査、最適な雷保護手法を検討してきた。
その成果をまとめた「文化財建造物の雷保護」を22年4月に発刊。理論から手法までを体系的に解説している。文化財建造物の管理者や工事業者、自治体の関係者などに活用してもらい、最適な雷害対策の実施を後押しする。