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歯車機構ー高効率化のポイント
歯車機構の伝達効率
軸、軸受、歯車から構成される歯車機構を考えた場合、発生する主な損失は歯車のかみ合いによるかみ合い損失と軸受部で発生する軸受損失である。かみ合い損失は歯面間のすべりによって発生する。ピッチ点においては歯車対の接触点速度は等しくすべりはないため、損失は発生しないが、ピッチ点以外では接触している歯面間にすべりが生じ、摩擦力が発生するためである。
したがって、歯車の伝達効率を上げるためにはこのすべり自体を抑えることが有効である。ピッチ点から離れれば離れるほどすべりは大きくなるから、ピッチ点に近い領域でかみ合いが行われるよう、歯形を設計すればよい。そうすればすべりを抑え、損失を低減できる。また摩擦力、つまり歯面の摩擦係数を下げることも有効である。
軸受損失は転がり軸受でも弾性変形により微小なすべりが発生するため、負荷に応じて損失が発生する。軸受自体の損失低減は機械設計者にはできないが、取り付ける歯車の諸元や組み付け位置により軸受に作用する負荷をコントロールすることは可能である。
歯車の振動騒音
歯車機構の高効率化を狙った場合、振動騒音性能への影響も考慮しなければならない。歯車はかみ合いの進行により歯対剛性が連続的に変化する。この剛性の変化や各種誤差により駆動歯車と被動歯車の回転角の間にわずかに進み遅れが生じる。これを伝達誤差というが、この伝達誤差が起振力となる。
伝達誤差の低減に有効なのがかみ合い率の向上である。かみ合い率、つまり一度にかみ合う歯数が増えると先に述べた剛性の変動を抑えることができ、伝達誤差を低減することができる。
では、かみ合い率を上げるためにはどうすればよいかというと、簡単なのはねじれ角を大きくすることである。しかしねじれ角を大きくするとよりピッチ点から離れた領域でかみ合うことになるため伝達効率は下がる。またスラスト力も大きくなるためスラスト軸受での損失も増加する。
このように歯車装置においては振動騒音と伝達効率性能が背反することがあるため、注意が必要である。
最近の減速機について
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図 位相ずれ平歯車
近年、鉄道では輸送能力向上のため、電気自動車では航続距離延長のため、高速化(モーターの高回転化)が進められている。この高回転化により増大する振動騒音と伝達効率の悪化をどれだけ抑えることができるのかが大きな課題である。新幹線においてはN700系までは減速機にはすば歯車を用いていたが、より高速化されたN700S系においてはやまば歯車が導入された。
左ねじれと右ねじれを併せ持つやまば歯車であればかみ合い率を大きくし、かつスラスト力が発生しないため静かで高効率な減速機を構成することができる。やまば歯車ははすば歯車に比べてコストの点で難があるが高回転化という最近の課題に対しては一つの有効な解といえる。電気自動車ではこれまでのような複雑な変速機がいらなく、簡素な減速機でよいことから今後、やまば歯車のようなこれまで用いられていなかった歯車が使われることがあるかもしれない。
最近の研究事例を見ると平歯車の位相をずらして一体化させることで、かみ合い率を向上させる位相ずれ平歯車(図)も提案されている。これは平歯車の組み合わせであるからスラスト力が発生しない。また、はすば歯車に対してかみ合い損失が小さく、やまば歯車に対して組み付け性がよいと考えられる。
おわりに
自動車においては電動化により複雑な変速機は必要ないため、使用される歯車の個数が減ることは間違いない。しかし電動化において直面している航続距離、電費向上という課題に対してカギとなっているのもまた歯車である。新材料、3Dプリンターをはじめとした新しい加工法やAI技術によってこれまでにない歯形を持つ歯車の創出が期待される。これからも歯車の進化に目が離せない。
【執筆者】
法政大学 理工学部 准教授
相原 建人