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触媒産業の現状と役割
資源循環型社会に貢献
触媒工業協会 事務局長 伊藤宏行
2021年を振り返ると、国内の化学工業は、新型コロナウイルス感染症のまん延により大幅に落ち込んだ前年から大きく回復し、日本化学工業協会がまとめた主要化学製品出荷指数によれば、対前年12%増となり、コロナ前の19年と比べてもマイナス1%にまで戻った。また、エチレンの生産量も前年比7%増の約635万トンとなり、コロナ前に匹敵する水準になった。こうした中、触媒工業は経済産業省の統計によると、触媒生産量が9万8070トン(20年比8%増)、出荷量が約9万3384トン(同2%増)だった。
生産量、出荷量ともに2年連続で10万トンの大台は割り込んだものの、前年の落ち込みからは着実な回復を示した。
一方で、出荷金額は7670億円(同51%増)と、前年実績の1・5倍にまで増大し、これまでの最高記録であった08年の5441億円を2000億円以上も上回った。ただし、この大幅な増加には、触媒に用いられる原材料、特にロジウム、パラジウムなどの貴金属の価格が高騰したことが大きく影響したとみられる。また、これらの数字に輸出入を加味して国内の需給動向を推定すると、21年の国内需要は数量で前年比5%減の7万2700トン、金額で同58%増の6230億円であった。
今年上半期の状況を見ると、石油精製用触媒の生産量、出荷量にはコロナ禍の影響が今もなお残っているが、人流の増加に伴い燃料油の生産量が徐々に戻ってきたことを受け、触媒生産にも回復の傾向が現れてきた。また、自動車排気ガス浄化用においては、コロナによる落ち込みからは素早く回復したものの、その後の世界的な半導体不足や東南アジアを中心としたコロナ感染拡大による自動車生産減少のあおりを受けて低迷が続いており、直近でもコロナ禍前の8割程度にとどまっている。
一方で、今年は化学品製造用や高分子重合用、その他の環境保全用が好調で、触媒工業全体で見れば、図に示したとおり、コロナ前と同等以上のペースで推移している。
ただ、ロシア・ウクライナ情勢、円安、エネルギー価格の高騰、景気後退リスクなど、新たな懸念事項については、現時点では直接的な影響は現れていないものの、今後長期化すれば、国内の産業に広く影響が出てくる可能性があり、その動向には注意が必要である。
今後の触媒工業に目を向けると、カーボンニュートラルや資源循環型社会に向けた新たな動き、例えば水素、アンモニア、e-fuelなどのカーボンニュートラル燃料や二酸化炭素の回収利用、化学工業における原料の多様化、プラスチックのケミカルリサイクルなど、注目すべき多くの取り組みが活発化している。これらに対しても触媒技術は多岐にわたって貢献できるとみられており、触媒への期待はますます高まっている。
これら新分野で利用される触媒が工業実績として統計の数字に表れてくるのは少し先になるであろうが、我々触媒業界としては、この世界的な潮流の変化を確実に捉え、さらなる発展、成長へとつなげていきたい。
原料多様化ー新たな触媒
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触媒工業協会 一瀬宏樹会長(キャタラー副社長)
触媒工業協会・一瀬宏樹会長インタビュー
触媒は効率の良いプロセス反応の実現、省エネでクリーンな環境保全などには不可欠な技術だ。触媒産業の現状と業界の取り組みについて、触媒工業協会の一瀬宏樹会長に聞いた。
―触媒の足元の需要動向は。
「自動車排気ガス浄化用は自動車の生産が停滞し、その影響を受けて生産や出荷量が落ちている。自動車の需要は旺盛だが、半導体不足がネックとなって生産に影響している。徐々に回復していくと思うが、先は読みにくい。石油精製用は人流が復活し、ガソリンの生産などが回復してきたのに伴い、触媒需要も上向いている。石油化学品用は堅調だ」
「出荷金額は増大したが、原材料費の高騰分が価格に転嫁されただけという側面が強い。メーカーの利潤に直接反映される訳ではない」
―カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応が重要な課題となっています。
「(触媒が使われる)自動車の内燃機関は減る方向に進むと思うが、まだまだ新興国を中心に残る。水素など化石燃料を使わない内燃機関を開発する動きもある。多様化する燃料に対応するために、後処理関係の触媒の種類も増えるだろう。それだけに技術をもっと深化しなくてはいけない。石油精製でも化石燃料だけでなくバイオマスなど原料が多様化しつつあり、不純物を取り除くのにも新しい触媒が必要だ。また工場から出てきた二酸化炭素(CO2)を回収して活用する処理でも触媒が必要になる」
―燃料電池電極触媒など新たな触媒製品も出てきています。
「燃料電池は自動車の動力源としても期待されている。その中で触媒技術が燃料電池の出力向上、白金の使用量低減、加速感の良さなどに貢献している」
―協会として注力するポイントは。
「触媒は幅広い業界で使われており、ワンボイスでの発信は難しいが、会員企業に関係する情報をきめ細かく提供することが大事だ。また会員企業や、他の化学系団体との技術交流や情報交換といった一層の連携も重要になる」
「これまでもあらゆる産業界の発展に寄与してきたと自負している。地球環境保護を筆頭に、広く社会課題の解決に貢献していく」