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インタビュー 日東工業社長 黒野 透氏/産業技術総合研究所 中部センター所長 松原 一郎氏
EMS関連製品に注力/日東工業社長 黒野 透氏
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日東工業社長 黒野 透氏
11月に設立75周年を迎えた日東工業。新工場の「瀬戸工場」(愛知県瀬戸市)が2024年春に稼働予定だ。主力事業は電気・電子機器収納用のキャビネットや分電盤などの電気インフラ関連事業だが、電気自動車(EV)用充電スタンドなどのエネルギーマネジメントシステム(EMS)関連製品にも力を入れる。黒野透社長に今後の戦略を聞いた。(名古屋・津島はるか)
―設立75周年を迎えました。
「設立時は戦後の荒れ果てた時代。安心して電気が使える環境を整えるため、電気のインフラを守る製品の開発、製造、販売を通して日本の復興に貢献してきた。現在でも、情報のインフラを守るためのサーバーラックなど“守る”をコンセプトに製品を展開する。今後は、地球環境を守るためのEMS関連製品に注力する」
―EMS関連製品として、太陽光自家消費蓄電池システム「サファLink-ONE-」を開発しました。
「EVのリユースバッテリーを太陽光発電の蓄電池として活用し、太陽光パネルもリユース品を使用する。サーキュラーエコノミー(循環型経済)を意識した製品で、顧客から引き合いが相次いでいる。実証実験で蓄積した電気や蓄電池を有効に活用する制御部分のノウハウもコンサルティングをしながら売っていくのが我々の役割だ。EMSの手段として、EV充電器やサファLink-ONE-などを提案していく」
―瀬戸工場がいよいよ稼働します。
「キャビネットを生産する工場だが、作り方を一新した。当社は作り方を標準化することで、安定した品質で短納期かつ低コストでの製品供給を実現してきた。瀬戸工場ではデジタル変革(DX)と自動化によって、標準品と(品質や納期、価格などが)同じレベルでの個別受注生産に挑戦する。無人搬送車(AGV)やロボットも活用した生産設備の開発で、標準品と同じコストでの個別受注生産を実現する。また、開発から生産までデータを一気通貫したシステムを構築し、工程を見える化した。個別受注で発生する工程把握の手間は、DXで効率化する」
―人にも環境にもやさしい工場だそうですね。
「従業員が一番長く過ごす場所なので、緑に恵まれ、広々とした“公園工場”にした。休憩スペースも多く取り、ウオーキングゾーンも設けて健康経営にも役立つ工場とした。環境面も配慮し、屋上の太陽光発電で工場内の電気はまかなう計算で、ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)も取得した。また、EV充電器も100台分確保する計画だ」
マテリアルDXを推進/産業技術総合研究所 中部センター所長 松原 一郎氏
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産業技術総合研究所
中部センター所長 松原 一郎氏
産業技術総合研究所中部センターは、セラミックス・合金材料の研究にデジタル技術を融合したデータ駆動型研究開発(マテリアルDX)を推進し、開発期間の短縮など新たな研究開発手法の確立に挑んでいる。松原一郎所長はオープンイノベーションを加速すると期待。共創による地域の課題解決に向けてアクセルを踏む。(名古屋・鈴木俊彦)
―マテリアルDXの活用で期待できるメリットは。
「研究成果を効率よく生み出す手段としてデジタル化を進めるべきだ。材料研究では材料試作や製造をカバーするプロセス・インフォマティクスが重要になる。国が策定したマテリアル革新力強化戦略に沿い、中部センターはセラミックス・合金拠点として整備し実行している。日本の産業競争力強化のために効率化は大変重要で、いい手段だと思う」
―新たな研究開発手法の開発に意欲的に取り組んでいます。
「研究を加速する一環で、実験の自動化、自律化に注目している。実験データの効率的な探索、収集を目指してロボットによるハイスループット自動実験と機械学習などの人工知能(AI)を用いて条件探索の高速化にトライしている。特に、新規の材料開発では利用できるデータベースも少なく、必然的に実験でデータを取る時間が多くなりがちだ。ロボットなどを活用し、少ない労力で多くの実験を行うことが求められている」
―自動車産業をはじめとして変革期にある産業界に対して、どう向き合いますか。
「地域の基幹産業である自動車業界は電動化が加速し、変革期にある。転換期を迎えた地域の課題解決に向けて、中部センターとしては材料技術で貢献していく。従来の共同研究といえば、企業のニーズに対して、我々の技術をマッチングして進めてきた。これからはニーズ対応ではなく、将来の方向性を産業界と一緒に議論させてもらい、どういった技術開発が必要になるのかなど、ニーズを生み出していく共創型の技術開発に向けて活動していきたい」
―研究内容の発信にも力を入れています。
「10月に開催した未来モビリティー材料をキーワードにした共創フェアでは、それぞれの研究の概要紹介とともに、ベンチマークを必ず示した。その技術の社会に対する位置づけのほか、どんな未来予想図を描けるのか、オープンイノベーションの実践に必要なキーワードは何かを明示し、ディスカッションした。ニーズを生み出すということを意識し、産業界と研究者が共に考えるよい機会となった」