-
業種・地域から探す
茨城大学、CO2を資源に再利用
カーボンリサイクルエネルギー研究センター設立
茨城大学は、「カーボンリサイクルエネルギー研究センター」(CRERC)を4月に開設した。二酸化炭素(CO2)を大気中から直接回収する技術「ダイレクト・エア・キャプチャー」(DAC)を核に、CO2の回収から燃料合成、活用までの研究を1カ所の拠点で一貫して実施し、社会実装を目指す。同センターの取り組みを紹介するとともに、田中光太郎センター長(茨城大大学院理工学研究科教授)に今後の計画などを聞いた。
CO2の回収―燃料合成―活用 一貫研究
-
茨城大学カーボンリサイクルエネルギー研究センターは工学部を置く日立キャンパスを拠点に活動する
大気中のCO2を削減しながら、CO2を資源として捉えて再利用する「カーボンリサイクル」の新技術を創出し、実用化するのが茨城大カーボンリサイクルエネルギー研究センターの目標だ。CO2を効率的に回収し、回収したCO2で燃料を合成、合成燃料を活用して電気を作り出すなどの一連の技術開発に取り組む。
同センターは工学部のある茨城大日立キャンパス(茨城県日立市)を拠点に活動する。回収、合成、利用の3分野の研究ユニットを設置し、開設時点で3ユニットには合計10人の茨城大の研究者が所属する。それぞれが各分野の課題に取り組みながら、分野間の接続性を意識した研究開発を実践する。
さらに3分野に共通する基礎的な研究課題などに取り組む「オープンサイエンスユニット」を設置する。オープンサイエンスユニットでは学外の研究者との連携や企業との産学連携を推進するほか、人材育成、地域貢献活動など多様な機能を担う部門となる。
回収に必要なエネ抑制―独自技術開発
-
茨城大学カーボンリサイクルエネルギー研究センターは4月に設立記念式典を開いた
DACは大気中のCO2を直接回収する技術の総称で、国内外でさまざまな方式が研究されている。一部では実用化も進むが、CO2の回収に大きなエネルギーが必要になるのが従来のDACの課題だった。そこで茨城大では、回収に必要なエネルギーを低減できる独自技術を開発し、その実用化を目指す。
茨城大が開発しているのが「湿度スイング法」と呼ぶCO2回収技術だ。乾燥状態の吸着材にCO2を吸着した後、常温の水を供給して湿度の変化でCO2を脱離し、回収する技術となる。従来は吸着材からCO2を脱離するのに温度を制御する必要があり、そこに大きなエネルギーを投入していた。茨城大の技術は水の供給だけなのでCO2回収に必要なエネルギーを大きく低減できる。
吸着材には「ポリスチレン系陰イオン交換樹脂」を用いる。回収ユニットでは同樹脂の改良などにより吸着材の性能向上に取り組む。回収したCO2は水素と反応させてメタノールなどを合成し、燃料にすることを想定する。合成ユニットでは燃料合成のための最適な触媒開発などの研究を推進する。合成した燃料をいかに高効率に燃焼させるかも課題の一つ。利用ユニットでは窒素酸化物など有害物の排出を抑制しながら、効率的に合成燃料を燃焼させる研究を推進する計画だ。
当面は各ユニットがそれぞれの課題を解決する研究に注力する。研究成果を積み重ねながら、5年後にはマイクロプラントでの発電を実現したい考え。さらに10年後には、実用レベルの規模にまで拡大し、茨城大日立キャンパスの棟の一部で今回のシステムで生み出したエネルギーを活用することを目標に掲げる。
海外の研究者との共同研究や企業との産学連携も促進する。カーボンリサイクルの分野で国内外をリードする研究開発拠点となり、茨城・日立からカーボンニュートラルに貢献する新技術を世界に発信することを目指す。

インタビュー/田中光太郎センター長「境界領域 シームレスに接続」
-
センター長 田中 光太郎 氏
―回収、合成、利用に関する一貫した研究体制を構築しました。その意義をどう見ていますか。
「3分野はそれぞれ多様な研究が国内で進んでいるが、実用化に向けて重要な要素は、各分野が接続する領域だと考えている。例えば回収の研究者はCO2をどんな純度で回収すれば燃料合成に使えるかといった観点が必要だし、燃料合成の研究者も回収可能なCO2の純度に見合った方法を考案することが必要になるだろう。必ずしも各分野のベストな技術ではなくても、実用化に向いている技術となる可能性がある。そうした議論を一つの研究拠点の中で日常的に行うことで、境界領域をシームレスに接続できると考える」
―海外の研究機関との連携の方向性は。
「カーボンリサイクル技術は世界中で求められている。海外の研究機関でも活発な研究が行われており、そうした研究機関とは密に連携したい。例えば合成燃料の研究に取り組むドイツの研究チームとは一部ですでに共同研究を始めている。8月にはドイツの研究者らを茨城に招いて合成燃料などをテーマにシンポジウムを開く予定だ。そのほか、米国やインド、アジア地域の研究機関との連携を検討している」
―オープンサイエンスユニットの役割は。
「3分野のユニットはそれぞれの研究を進めるが、それらに共通する基礎技術の研究をオープンサイエンスユニットが担う。例えばガスと固体が接触する表面の計測技術や分子レベルの計算など、共通する基礎技術を学内外の知見を融合して研究できる体制にする。オープンサイエンスユニットには外部の大学・研究機関に所属する研究者を当センターの特命研究員として採用する方針だ」
―企業との連携は。
「オープンサイエンスユニットを窓口にして連携したい。また各ユニットや各研究者のテーマでそれぞれ引き合いがあり、すでに企業との共同研究を実施している案件もある」
―CO2で燃料を作りエネルギーを生み出すという発想には独自性があります。
「地球温暖化防止の観点から世の中では代替エネルギーの研究や利用が盛り上がっているが、大気中のCO2を減らすという本来の目的を忘れがちになっている傾向もあるのではないかと思う。その本来の目的を見つめ直し、目的を達成する手段の一つとして当センターの研究を社会に提案していきたい」
