-
業種・地域から探す
住みやすいまちへと変わりつつある 兵庫県尼崎市
第6次総合計画始動 キーワードはIT/市長インタビュー
全国有数の工業都市として発展してきた兵庫県尼崎市が変わりつつある。4月に本格始動する「第6次尼崎市総合計画」に盛り込まれたさまざまな施策・政策をベースに、今後10年間にわたって、新たなまちづくりが展開されることになる。2022年12月に就任した松本眞市長がそのけん引役を担う。そこで、尼崎市の将来構想や地域活性化への考えなどを聞いた。
23年度主要事業 子育て・住環境 2本柱
-
尼崎市長 松本眞氏
―就任3カ月が経過しました。市政に臨まれる姿勢は。
「私の役割は連綿と続く尼崎を次に引き継ぐことだ。責任を持って未来にバトンタッチできるよう取り組む。そのために尼崎で育った子どもや孫の世代が、今以上に幸福感や安心感を持ち生活できる土台づくりを進める」
―2023年度の主要事業の狙いは。
「子育て環境と住環境を2本柱とした。尼崎市が“住みやすいまち”へ変貌を遂げるメッセージでもある。尼崎市は内需主導型産業の西の中心に位置付けられ、今も市域の36%が工業地域だが、産業構造がグローバル化へ転換し競争は厳しい。そこでIT分野を誘致したいが、それには人が住む場所としての価値を高める投資が欠かせない。住みたいまちとして発展するかどうかで尼崎市は大きく変わる。民間企業が行うまちづくり投資を促し、子育てに手厚く、住みやすいまちを目指す」
―4月から第6次尼崎市総合計画が本格始動します。
「市の事業は投資的発想が必要。今の尼崎は“買い”のタイミングを迎え、さまざまなインフラ整備が必要な時期に差し掛かっている。そこに投資をして、まちが変われば人が新たに入るきっかけになり、産業や商業が集積する。予算にも盛り込んだ阪神尼崎駅前の中央公園リニューアルや阪神タイガースファーム移転に伴う大物、小田南公園周辺整備などの着実な推進が市の価値を高める。ただ、単に進めるのではなく、機能を考え、集約すべきところは集約して土地を生み出し、住宅も誘導する」
―産業政策会議も立ち上げました。
「産業構造は既に変化の兆候が出ている。教育長時代からITを駆使して自らが上流を創造し、挑戦する企業を増やすことを強く意識していた。イノベーションにつながる企業活動を応援する。その一環で尼崎信用金庫、尼崎商工会議所と三者の連携協定に基づき、トップ会談を行い自由に議論した。IT分野は実力が全てで年齢や役職、学歴は関係ない。ベンチャー系は初期投資も不要で夢のある産業だ。東京では若手がベンチャーの世界に進出する傾向が見られるが、尼崎にも呼び寄せたい。挑戦しようと思う人が集まれる場所になればという野望で、この点は大久保和正尼崎商工会議所会頭とも意見が一致した」
挑戦意欲生み新陳代謝起こす
-
松本眞(まつもと・しん)05年(平17)東京学芸大学大学院修了、同年文部科学省入省。13年内閣官房出向、15年文科省情報教育課課長補佐、18年尼崎市教育長、21年文科省教育DX推進室室長補佐、尼崎市教育アドバイザー、22年尼崎市長。静岡県出身、43歳。
―若い人を呼び込むためには。
「例えば、六本木ヒルズはイノベーティブな人が住宅としても産業創造の場としても使っているように、職住近接の尼崎もそうした環境はつくれる。ITを核に何かと掛け合わせることをまちづくりのキーワードにしたい。将来、企業として米国などに本社を移しても、スタート時点の基礎は尼崎だったという덀尼崎愛덁を持つ人を多く輩出したい。それには尼崎に人が集まり定住し、さまざまなことに取り組んでもらわなければならない。将来の尼崎発展の重要な施策と捉えている」
―そのほかに全体構想の中で注目されているところは。
「南部地域に期待している。阪神大物駅周辺の住宅街は高齢化で虫食い状態だが、今後10年でどう変わるか分からない。文化を残しつつ新産業の人たちが間借りする土壌になる可能性も秘める。そこに民間投資が向けば、まちづくりの起爆剤になると思う」
―尼崎で今後、事を起こすには。
「今回の予算が好循環づくりの第一歩。その上で、“松本色”を鮮明にする。私は43歳で市長に就任したが、1人の人間として人生二毛作、三毛作で生きられる社会になればと思ってきた。挑戦意欲がある有能な人は一つの組織にとどまらず、どこかで新たなことにトライできる環境が必要だ。それには子育て支援や両立支援が重要になる。仕事と家庭の役割分担はリスクが高い。みんなで助け、支える体制ができれば、仕事と家計の負荷が分散し働き方のリスクが抑えられ、挑戦意欲を生み新陳代謝を引き起こす。今後の社会や経済の発展には、そうした働き方を支えることが、持続可能な形になるのではないか」
―インクルーシブ教育推進も掲げました。
「労働人口が減る中、1人より2人で手分けすれば労働人口は確保できる。労働時間が短縮されると生産性向上が避けられず、IT投資は欠かせない。また、インクルーシブ教育がカギを握る。個性を生かし価値を高める教育が必要になる。インクルーシブ教育推進は多様な人を受け入れ価値を評価し、能力を発揮できる社会をつくりたいからで、学校から教育を変えなければならない」
―未来をつくる産業の育成や人材確保に向けては。
「私の立ち位置は家計部門と経済部門の結節点にある。経済をうまく回す家計部門の支援、家計をうまく回す経済部門の支援のバランスが取れた政策が求められる。地方レベルで何ができるかを考えたい。家計部門を支える子育てや住環境整備、まちづくりなどは市が主体的に進められる。経済部門の取り組みは限定的だが、イノベーションや産業支援は積極性が打ち出せるだけに、地域の人とも連携して進める」
―最後に尼崎の将来への率直な思いを。
「市長選で『対話重視』『実行力』『誰一人取り残さない』を政治姿勢に掲げた。市長には市民や経済界、いろいろな立場の人から話を聞くとともに、職員からの情報も踏まえた判断が求められる。一市民、一団体、経済界、産業界の思いを受け止め政策に反映し、成長・発展につながる仕事に取り組む。私一人では難しく、職員の協力も仰ぎながら、市政に臨んでいく」