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特別インタビュー「関西の未来を聞く」② 岩谷産業社長 間島 寛 氏/エア・ウォーター会長兼CEO 豊田 喜久夫 氏
岩谷産業社長 間島 寛 氏/水素社会実現へ供給網構築
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岩谷産業社長 間島 寛 氏
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ、CN)の世界的潮流の中で、水素産業に期待が高まっている。岩谷産業は水素事業を成長事業に位置づけ、水素製造や関連する製品の製造・販売に取り組む。今後、水素社会の実現に向け、国内外での水素サプライチェーン(供給網)の構築を急ぐ。2025年開催の大阪・関西万博では水素船を披露するなど、水素活用事例を世界にアピールする。水素事業戦略を間島寛社長に聞いた。
万博の「キー技術」世界に発信
―水素の利活用が広がってきました。
「ユーザーや機器設備メーカーがボイラやバーナーなどに水素燃料を使うなど活用が広がっている。水素燃料に完全に置き換えるのはまだ先だが、将来使う量を確保するにはまとまった量の水素の供給が必要で、液化水素が重要な役割を果たす。必要な量を提供するために水素の製造や貯蔵、運搬などにしっかり絡んでいく」
―水素供給網の構築が重要になります。
「川崎重工業やENEOSと共同で製造中の液化水素の運搬船が27年度にも完成すれば大量の水素を供給できるが、完成には時間がかかる。岩谷産業は国内3カ所に製造拠点を持ち、年間1万トン強の液化水素を製造している。だが顧客の水素活用の試みが少し進むだけで供給できる水素の容量を超える。そのため中部地方の拠点で20年代中頃の水素製造を計画しており、東日本中心にもう一つ製造拠点を造りたいと考えている。今後の調達インフラとして、海外から液化水素を大量に運び流通させる川上での動きにも絡みたい。調達先として有力なのは豪州だが、北米や中東なども検討する」
―水素社会に向けた課題は。
「コストが高い国内の再生可能エネルギーなどを考慮すると、海外から水素を調達するほうが良い。海外からベストなものを考え進めていくが、その実現までどうカバーするかが課題だ。例えば機器メーカーは水素の混焼比率を変えられる機械を考えている。水素が高価格の時には水素の混焼比率を下げ、低価格になったら水素の混焼比率を上げれば良い。CNに向けた移行期の取り組みが足元での重要な問題だ」
―万博に向けた取り組みはいかがでしょうか。
「水素を万博でのキー技術にする。水素燃料電池と蓄電池でモーターを回す約150人乗りの水素船を建造中で、24年には試験運航したい。近々デザインを発表する予定で、取り組みを世界に発信したい」
―万博に関連し神戸での水素の取り組みが進んでいますね。
「神戸には水素供給網に関する企業連合の基地がある。岩谷産業は基地の真向かいにあるポートアイランド(神戸市中央区)に8階建ての研修施設を建設する。24年10月ごろに完成し、そこに設置した水素タンクと水素型燃料電池を利用し、電気を供給する計画だ。また水素船は万博後に瀬戸内海の観光に使ってもらおうと考えている。神戸に行けば水素に関する多くの試みがあると思ってもらえるようにする。万博をきっかけに神戸は水素の利活用の聖地になると期待している」
―30年に向けた将来ビジョンは。
「水素やアンモニアなどCNの主役となるエネルギーが軸になる。よりグリーンな水素が海外から入る姿を思い描いており、岩谷産業としてグローバルな観点での取り組みを示したい。大阪発祥の企業として軸足を置き、岩谷産業ならではの独特な事業を展開したい」
エア・ウォーター会長兼CEO 豊田 喜久夫 氏/バイオガス事業確立目指す
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エア・ウォーター会長兼CEO 豊田 喜久夫 氏
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰など厳しいビジネス環境の中、エア・ウォーター(AW)はM&A(合併・買収)を繰り返しグループの規模を拡大してきた。2022年度から新中期経営計画が始まり、23年3月期の通期業績予想で売上高1兆円を見込む。今後は脱炭素や食品・農業分野などに注力し事業拡大に取り組むとともに、ブランド価値の向上など無形資産の構築にも取り組む。豊田喜久夫会長兼CEOに戦略を聞いた。
海外投資増、国内は選択と集中
―カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を事業の柱に据えています。
「北海道で牛のふん尿からバイオガスを利用した事業を本格的にやりたい。北海道は乳業が多く、牛が排出する二酸化炭素(CO2)が問題になっている。排出されたCO2をメタンや電気に変え利用する。酪農が盛んな牧草地をつなぐ『ミルクロード』で集めたエネルギーは、北海道での液化天然ガス(LNG)の年間使用量の約半分に相当する。実証で一応の成果は出ており事業として確立したい」
―大阪府吹田市と同摂津市にまたがる「北大阪健康医療都市(健都)」の開業が9月に迫っています。進捗はいかがでしょうか。
「健都のテーマは食と健康。建物の外観がほぼでき、これから内装を作る予定で、順調に進んでいる。モーツァルトの音楽は人の脳にやすらぎを与えるようで、音楽セラピーの専門の部屋を設ける予定だ。音楽を聴いた前後で血圧などのデータを測定し、ストレス解消につながるかといった取り組みをプログラムに入れている」
―大阪・関西万博の開催まで残り2年弱となりました。
「大阪府・市のヘルスケアパビリオンに出展を申し込んだ。出展内容は健都などの取り組みの延長線上にある。万博は健都を含めAWの事業を進化させる道具となる。展示物は万博終了後にも健都での活用などを想定する。東京への一極集中が進む中、関西一体で取り組めば東京に負けない力がつく。大阪をもっと発展させたい」
―国内外での事業の方向性はいかがでしょうか。
「30年に売上高1兆6000億円を目指している。今の研究開発の充実や海外の成長に取り組む。技術者や海外人材をどう育てるかが課題だ。国内の事業を再構築し、必要な人材を海外に送れるようにしたい」
「国内では東日本、西日本、北海道の三つの地域事業会社の役割が重要になる。今、伸びているのは地域で、新しいビジネスの芽が出始めている。本社の部門と融合を進める時期に来ている。この20年間で設備投資やM&A、技術開発などに1兆円を投資した。現状での海外投資は国内投資の10分の1程度。今後は海外投資を増やし、国内事業は選択と集中を進める」
―30年度までの期間を「第3の創業」と位置づけています。30年に思い描く姿は。
「直接的な投資や有形資産がブランド力や人材などの無形資産に代わっている。次の経営者を生むためにはAW本社だけでなく、グループの人々が参画できるようにしたい。人材の問題として女性の登用がまだ少ない。女性を多く採用する必要がある。こうした取り組みは最低でも10年かかる。AWではようやく部長級に女性が就き、新しい風が吹き始めている。現体制で20年間進んできたが、これからは視点を変えないといけない。会社の発展にはみんなが納得できる会社にする必要がある」