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阪神38年ぶり日本一 日本シリーズは59年ぶり関西決戦
2023年のプロ野球は阪神タイガース、オリックス・バファローズの関西2球団がそれぞれリーグ優勝し、日本シリーズの対決「関西ダービー」は盛り上がった。オリックスはリーグ3連覇で、阪神は38年ぶりの日本一に輝いた。民間シンクタンクによると今回の経済効果は1607億円とされる。阪神、オリックスそれぞれの思いを持つ経営者らに話を聞いた。
経済以上にスポーツの効果実証/コクヨ会長 黒田 章裕氏
リスクより成功の大きさ選択
―18年ぶりの阪神タイガース優勝を甲子園球場で観戦していたそうですね。
「今年は甲子園球場で8回観戦した。会社で年間利用できる特別観覧席があり、阪神ファンの私が、巨人ファンのお客さんを接待する日とたまたま重なった。この日だけは、お客さんもみんな阪神のはっぴを着ての応援だった。亡き父も阪神ファンだったので2人分楽しんだ。球場内の熱気はもちろん、球場外も大勢のファンが観戦するスマートフォンの光が見え、感激した」
―岡田彰布監督をどう評価されますか。
「選手の横で細かくアドバイスしない監督だと聞いているが、人の操縦術はたけている。元気のない選手はベンチに下げたり二軍に落としたりするが、機微に触れるところでしっかりチャンスを与える。日本シリーズ第4戦の“湯浅の1球”は象徴だ。素人判断だが、(長く故障離脱しており)緊張するタイプの湯浅京己投手をあの場面(同点の8回2死一、三塁)で使うのはどうかなと思った。ただ岡田監督は彼に投げさせた。リスクはあるが、成功した時の大きさを考えたのではないか。感心した」
―若い選手をうまく活用している印象もあります。
「岡田監督は(プロ1年目の)森下翔太選手ら若手にどんどんチャンスを与えていた。ただ、ちやほやではなく、選手の機微に触れる指摘をしている。技術的にどうこういうより、野球を離れても1人の人間として一人前にしようという思いがあるのではないか」
―阪神の日本一効果をどう見ていますか。
「経済効果はもちろんあると思うが、わくわく感、気分が上がることは大きい。人の気を上げるのは難しいが、スポーツはその効果がある。優勝したといって飲む酒は多分良薬になり、阪神ファンの寿命にも影響を与えたのでは(笑)」
―来年の阪神に期待することは。
「期待しなくてもこのままいくでしょう。阪神が強いのは間違いない。競争相手がどう向かってくるかだ」
自社商品投入に大きな意義/カジタニ金属社長 鍛冶谷 伸司氏
独自の応援グッズ開発
中小町工場も阪神タイガースのリーグ優勝・日本一に燃えた。建築金物を手がけるカジタニ金属(大阪市生野区)は、阪神ファンの鍛冶谷伸司社長(写真右)の熱い思いから、独自の応援グッズを商品化した。頭にかぶる応援兜(かぶと)「カブトラ」だ。大阪府内の町工場連携で作り上げ、組み立てで大阪府東大阪市の障害者施設の協力も得た。
阪神タイガース球団の承認を経て、9月29日から2カ月間、クラウドファンディングサイトで販売。日本シリーズ前に販売できたことも大きく、目標の330個を完売した。2024年1月からはアマゾンのネット通販サイトで自社ショップを持ち、引き続き販売することも決めた。
「カブトラの購入者は関西圏が多いものの、北海道から沖縄まで全国にいた」と鍛冶谷社長は手応えを語る。カブトラを試作段階から甲子園球場でかぶり応援していたところ、「それどこで売ってるの」と声をかけられることが増え、商品化を決断するに至った。
大阪の優勝記念パレード会場で鍛冶谷社長はボランティアで警備をしていたが「カブトラをかぶっていた人を複数人みた」と喜ぶ。
「景気は厳しいが、本格的な自社商品を投入できた意義は大きい」と鍛冶谷社長。社内で阪神の話題を通じコミュニケーション活性化にもつながっている。
新しい選手活躍が強み/富士電波工業社長 横畠 俊夫氏
小学生の時から熱狂的なブレーブス(現バファローズ)ファンの富士電波工業(大阪市淀川区)社長の横畠俊夫さん。今季は60試合観戦。「チーム唯一の一流打者だった吉田正尚選手が抜けたのにリーグ3連覇したことは本当に偉業」と振り返る。日本シリーズもホームゲーム4試合を観戦したが、「第7戦の青柳投手は打てる気がしなかった」とちょっと悔しそう。
新しい選手が次々と登場しては活躍するのが現在のバファローズの強み。四半世紀にわたる低迷時期と比べて「良い試合が増え、個性的な選手も増えてきた。チームがうまく回っていると感じる」と喜ぶ。かつては試合観戦が「修行のようだった」と苦笑いし、女性ファンが増加した球場の変化も実感。「若い女性が集まらないエンタメは衰退する。良い傾向と思う」と話す。
来季はエースの山本由伸投手が大リーグに挑戦。それだけに「フルシーズン、どこまで絶対的なエース級のピッチングを見せてくれるか楽しみ」と新人王の山下舜平大投手に期待をかける。リーグ4連覇については「可能性はないことはないと思うが、一番の優勝候補はソフトバンクでは」とあくまで慎重だ。
人づくりの大切さを共感/大和ハウス工業社長 芳井 敬一氏
チームの姿は企業の手本
子どもの頃から近鉄バファローズのファンで、今はオリックス・バファローズのファンです。オリックスはリーグ3連覇、昨年は日本一にもなりました。また今年はセ・リーグでは阪神タイガースが優勝し、59年ぶりの関西ダービーに大阪出身の私としてもワクワクしました。日本シリーズは最終戦までハラハラして本当に疲れましたが、楽しませていただきました。ありがとうございました。
中島聡監督は、指揮官として本当にすごいと思います。3連覇を達成され、もちろん采配は素晴らしいのですが、選手一人一人をよく見ていて、それぞれがどの場所で輝くのかを分かっているので、監督は、その環境をつくることに力を注いでおられるのだと思います。そして選手たちもその思いをしっかりと受け止め、監督の示す道が選手全員に浸透しているので、どの選手が出ても活躍しチーム一丸となって戦えているのだと思います。
昨年、4番バッターの吉田正尚選手がメジャーに行き、今年のオリックスの優勝は難しいと思っていましたが、監督は何の言い訳もせずに勝ちきりました。このようなチームは強いです。
オリックスで育った選手が、オリックスの中で活躍する。そしてメジャーで活躍する。このオリックスの姿は企業としても手本となります。人をよく見て、人を育てる。人づくりが大切であるという考えは、当社も創業以来大切にしていることで、共感できますし見習いたいところです。
また、監督は選手の起用法や采配について、ほとんど自分の考えを語らないと聞きました。情報を多く出さないことで、相手チームは困惑して考えてしまう。このように語り過ぎないところも巧みだなと思います。来年は、山本由伸選手がメジャーに行くことになるかと思いますが、監督はこれからもあまり語らないまま、来年も勝ち続けるだろうと期待しています。
(メッセージ寄稿)