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精密電子部品加工機における位置決め技術
【執筆】名古屋工業大学大学院 工学研究科 電気・機械工学専攻 教授 岩崎誠
身近なIoT(モノのインターネット)機器や家電製品の主要部品として多用される電子回路には、小型・複雑化かつ低価格化が強く求められる。一方、第5世代通信(5G)ネットワークをはじめとする通信インフラやクラウドコンピューティング機器、自動車電装品などには、機能・性能向上に伴う大型の電子回路が多く導入されている。これら多くのバリエーションが混在し、複雑になった高性能電子回路の要求に対し、製造コスト削減や低価格化を併せて実現可能な精密電子部品加工機械には、精密機械設計のみならず、コントローラー、センサー、アクチュエーター、さらに機械オペレーターとの安全かつ容易なインターフェースなど、多種多様な最先端技術の適用が必須である。
精密電子部品加工機に求められる課題
プリント配線板に電子部品やソケットなどがはんだ付けで実装され、電子回路として動作するプリント回路板(以下、総称してプリント基板)は、さまざまなIoT機器、家電製品、産業用機器、輸送機械のコア部品として多用されている。モバイル用IoT機器に代表される小型電子機器のプリント基板には、電子回路の小型・複雑化に伴い、電子部品そのものの小型化や狭隣接実装が求められる。例えば「ウエハーレベルチップサイズパッケージ」と呼ばれる超小型半導体集積回路などの最先端部品や、0201サイズ(幅0・25ミリ×奥行き0・125ミリ×高さ0・125ミリメートル)のチップ抵抗器やセラミックコンデンサーの実装には、数十ミクロンの位置決め加工精度が必要である。
一方、5Gネットワークなど大型化する通信インフラ機器や輸送機器など、高性能・高信頼性が要求される電子回路では、中央演算処理装置(CPU)の性能向上に伴うパッケージ部品やソケットサイズが大型化・重量化するトレンドにある。そのため、プリント基板そのものの大型化、大型部品の高精度実装に対応可能な電子部品加工機が必須となる。さらに、電子回路の小型・高密度化や低価格化を狙った多層プリント基板(基板内部にも配線層を積層したタイプ)も多用されており、表面や内部層間を電気的に導通させる「ビア・ホール」と呼ばれる穴開け加工も併用される。その場合、高出力二酸化炭素(CO2)レーザーやドリルで加工するプロセスが主流であり、最新のレーザー加工機では、数百ミクロン径のビア・ホールを、1秒間に数万穴の速度、10ミクロン程度の精度で穴開け加工する。以上のように、バリエーション豊富な電子回路を構成するプリント基板の製造には、要求仕様を満足可能な高速・高精度な電子部品加工機が必要とされ、その実現には高精度な機械設計のみならず、機械構造体、アクチュエーター、センサー、制御の四つの機能を統合したシステムとして、制御技術との合わせ技が必須となる。
精密加工を支える位置決め制御技術
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図1 プリント基板ドリル穴開け加工機の位置決め機構の例 -
図2 電子部品実装ロボットの部品吸着ヘッド位置決め機構の例
前述の高速・高精度性能を保証し、最適設計された機械システムが持つ運動精度を最大限に発揮する位置決め制御には、どのような技術が有望であろうか。筆者らのグループは、プリント基板穴開け加工や電子部品実装に関わる精密加工機械の位置決め制御技術開発に、長年にわたって産学連携共同研究として携わってきた。図1、2は、プリント基板ドリル穴開け機と電子部品実装ロボットの位置決め機構の例を示したものである。
これらの複雑な機構に対して、高速・高精度性能を阻害する主たる共通要因として、有限な機械剛性による機構振動、摩擦やヒステリシスなどの非線形要素、未知の外力や経年・温度変化による機構特性変動が挙げられる。制御工学では、これらの要因を「等価的な外乱集合」として扱い、ロバスト制御性能(外乱に対して頑強な性能)を向上させるアプローチが多く応用されている。その実践技法の一つに、対象機構の特性を積極的に利用したフィードフォワード制御と、ロバストなフィードバック制御を組み合わせた「2自由度制御」が挙げられる。2自由度制御では、フィードバック制御によりシステムの安定化とロバスト化を図って位置決め制御精度を向上させ、さらにフィードフォワード制御によって高速応答性を担保する。
さらに、近年の制御技術のトレンドとして、非線形要素に対して制御性能向上が期待できる「モデル予測制御」や、繰り返し作業や周期的な外乱に対して高い効果を発揮する「反復学習制御」、機械学習や最適化アルゴリズムを併用した「精密モデリング(高精度シミュレーター)」などの制御アプローチが、さまざまな位置決め制御システムに実装されている。これらの最先端技術は、加工機械を駆動するアクチュエーターやセンサーとの連成解析・設計などとも合わせ、省力化や製品・製造コスト削減にダイレクトにつながり、組み立て工程全体を最適化する「スマートファクトリー」の実現など、競争力の高い製品づくりに大きく寄与するものである。
