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EMOで発表された新製品・技術、MECTでも注目
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来場者でにぎわうEMOの会場
9月18―23日に独ハノーバーで開催した欧州国際工作機械見本市「EMOハノーバー2023」。日本メーカーも多数参加し、脱炭素化や人手不足への対応など製造業が抱える課題に対する解決策を提示した。強力な地元メーカーがひしめく中、欧州市場の切り崩しを図ろうと、新製品の紹介や新機軸の提案に熱を込めた。
脱炭素化に貢献する新装置 来場者が操作体験
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オークマの新CNC装置「OSP-P500」。来場者が操作を体験できるようにした
「寸法精度の安定性」と「エネルギー消費量の削減」の両立を自律的に行う工作機械を「グリーンスマートマシン」として定義し、市場に展開するオークマ。EMOでも「脱炭素に貢献した上で自動化する機械」(家城淳社長)をそろえた。
展示する12台のうち6台を自動化仕様として、工作機械内蔵型のロボットシステム「アームロイド」を組み込んだ旋盤などを実演。また、5軸制御マシニングセンター(MC)の新機種「ジェノスM560V―5AX」をPRした。エントリーモデルながら世界最高レベルの精度安定性を持つのが特徴で、欧州での「新しい市場を開くドアオープナー(購入しやすい商品)のマシン」(同)として来場者に訴求していた。
新型のコンピューター数値制御(CNC)装置「OSP―P500」も目玉の一つに据えた。新装置を搭載した工作機械の機種を並べたほか、単独設置した新装置を6台用意。実際に来場者が操作を体験できるコーナーを設けた。新装置の売りの一つが操作の容易さ。図面情報の入力をするだけで、加工用のプログラム言語を知らない初心者でも扱えるという。製造業の人手不足という世界的な課題に対し、工作機械の操作を簡便にするという解を提示した。
EV普及進む欧州市場に対応
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ニデックマシンツールは内歯車研削盤を初公開した
ニデックはグループの力を結集し、欧州市場を開拓する姿勢を強調した。ニデックマシンツール(滋賀県栗東市)とニデックオーケーケーが共同で出展し、欧州の顧客になじみが深い独シーメンスの数値制御(NC)装置を搭載した内歯車研削盤「ZI20A―G」や、欧州で需要が高い5軸制御の立型MC「VB―X650」などを初公開した。ニデックマシンツールの二井谷春彦社長は、ニデックオーケーケーとの合計の売上高で欧州やアジアなどその他地域の比率を「グループの連携などにより25%に引き上げたい」と意欲を見せる。
電気自動車(EV)の普及で世界をリードする欧州市場に向け、EV部品の加工に適した工作機械の展示も目立った。
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バッテリーケースの加工をターゲットにした「NX70」などを展示したホーコスのブース
ホーコス(広島県福山市)は「バッテリーケースの加工をターゲットにした」(菅田雅夫社長)新型MC「NX70」などをPRした。ブラザー工業も主軸30番テーパの小型MC「スピーディオ」シリーズで初となる横型MC「H550Xd1」などを欧州で初披露。
切り粉の排出性が高くてトラブルが少ないがゆえに自動車業界に好まれる横型のラインアップ追加で、EV普及が先行する欧州での需要を掘り起こす構えだ。
汎用機の拡販に注力 ロボ組み合わせ自動化訴求
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エンシュウはイタリアの代理店の協力のもとロボットシステムを組み合わせた「GE480H」をPR
一方、従来のエンジン部品を主なターゲットにしていた専用機メーカーの中には、汎用機に新たな活路を見いだす動きも見られた。
エンシュウは近年注力する汎用機の拡販に向け、2台の新機種を出展。そのうち横型MC「GE480H」は、シリーズ機を含めすでに欧州市場でも多くの納入実績がある。展示ではイタリアの販売代理店の協力を得て、ロボットシステムを組み合わせた自動化を訴求していた。
金型向け製品の提案相次ぐ
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OSGは新開発の「グリーンタップ」をPR -
ダイジェット工業は金型の製造に適した刃先交換型の工具などを展示 -
日進工具のPCDエンドミルで加工したサンプル。後処理をしなくても鏡面を作れる
EMOでは工作機械メーカーのみならず、切削工具でも日本メーカーが欧州市場に切り込もうと自らの技術をアピールした。欧州で盛んな電気自動車(EV)や航空機産業に向けた新製品のほか、モノづくりの根底である金型製作における新提案も随所に見られた。
OSGは初日に会場内で開いたセミナーで、新機軸の工具の開発を発表。塑性変形によってネジ山を作る工具の盛り上げタップについて、従来の形状を一新し、新しいメカニズムで加工する「グリーン・タップ」だ。従来より長寿命化するとともに、新たなタップ製造法の採用によって生産時の二酸化炭素(CO2)排出量を半減できる。24年内に発売する予定だ。
ダイジェット工業は航空機部品や金型の製造に適した刃先交換型の工具などを出展。目玉は金型向けのエンドミル用の新製品で、「送り速度を上げて高能率で加工できる」(木村聡営業企画室長)。発売から間もないが、この強みを武器に、速い送り速度での加工を好む欧州市場で売り上げを伸ばしているという。
日進工具も金型向けの製品を前面に押し出す。多結晶ダイヤモンド(PCD)のエンドミルで、削った後に処理をしなくても鏡面を作れるのが特徴だ。後藤弘治社長は「磨きの職人がいなくなっている金型の製造現場に、削っただけで鏡面に仕上げられるという提案をしている」と話す。エンドミルの売り上げの中でPCDの比率はまだ低く、伸びしろのある製品として期待をかけている。
日本工作機械工業会の調べによると、23年1―7月期の欧州向けの受注額は前年同期比0・4%増の1372億円。EMOに来場していた稲葉善治日工会会長は、足元の欧州市場について「非常に良かった22年に比較すれば落ち込んだとはいえ、まだ底堅い。24年の春ぐらいから持ち直してくるのではないか」との見通しを示す。踊り場にある欧州市場の趨勢(すうせい)を捉えた提案をどれだけできるかが、各社の欧州戦略の成否を左右しそうだ。