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水素 先進的取り組み進む
◇陸◇ ステーション整備推進
神戸市が掲げる「水素スマートシティ神戸構想」では五つの柱の一つに、水素ステーションの整備促進を掲げる。5月10日には人工島ポートアイランド(神戸市中央区)の神戸エムケイ本社隣接地で、水素ステーションが営業を始めた。日本エア・リキードが運営する。ただ神戸市内における商用水素ステーションは、現在は2カ所にとどまる。市は水素ステーションの整備に1件当たり5000万円を補助し、整備を急いでいる。
ポートアイランドでは18年、川崎重工業と大林組が市街地における水素専焼発電による熱や電気の供給に世界で初めて成功した。窒素酸化物(NOx)低減のため水を使うウェット方式を採用。水素ガスタービンを用いた水素コージェネレーションシステム(CGS)の実証プラントで発生させた電気や熱を、近隣の国際展示場や病院、スポーツセンターなどに供給した。久元喜造神戸市長は「近隣に住宅やホテルがある市街地で、水素ガスタービン発電をする事例は世界的に見てもない」と強調する。
川重は18年の水素専焼の成功を皮切りに、高い発電効率とNOx低減の両立、液化天然ガス(LNG)と水素のブレンドレート(混合割合)の自由度向上に取り組んできた。21-22年度の取り組みでは発電効率に優れるドライ方式で、NOx排出量を35ppm(ppmは100万分の1)以下に抑えることに成功。大気汚染防止法の規制値の半分に当たり、脱硝装置を設置せずにNOx規制値をクリアできる地域の拡大につなげた。
またドライ方式はこれまで水素専焼しかできなかったが、カロリーベースで水素の混合割合を20%まで低減した。水素は高価なため、足元はLNGを使いつつ、水素への移行もスムーズにできるようにした。
◇海◇ 海外からの供給網構築へ
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神戸空港島の液化水素貯蔵・荷役基地「Hy touch神戸」
川重は発電のように水素を「使う」取り組みだけでなく、海外で生産した液化水素を運搬する船の開発や貯蔵など、サプライチェーン(供給網)の構築にも取り組んでいる。22年春、川重や岩谷産業などの企業連合「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(ハイストラ)」は豪州の未利用資源「褐炭」から製造した水素を液化して海上輸送し、神戸空港島の「Hy touch(ハイタッチ)神戸」で荷役する実証に成功した。
神戸港や播磨臨海地域では、カーボンニュートラルポート(CNP)実現に向けた取り組みが進む。国土交通省港湾局長の堀田治氏は「温室効果ガス(GHG)発生源が集中する港湾の脱炭素は、我が国の脱炭素とニアリーイコールだ」と意義を語る。また荷主や船会社からは、海上輸送の脱炭素の要求が急速に高まっている。「わが国を代表する港湾」(久元市長)である神戸港は、CNPの早期実現で、国際的な存在感を高めたい考えだ。
◇空◇ 航空機エンジンにも応用
神戸空港は「カーボンニュートラルエアポートの推進」を掲げる。欧州航空機大手のエアバスは神戸空港を傘下に置く関西エアポート(大阪府泉佐野市)と覚書を締結。航空機の動力に加え、空港で利用される地上交通設備の脱炭素にも水素を活用する。
川重はポートアイランドの水素CGS実証プラントの知見を水素航空機用エンジンにも生かす。執行役員水素戦略本部副本部長の山本滋氏は水素CGS実証プラントについて「地上置きのジェットエンジンのようなもの」と説明する。神戸空港の脱炭素化においても、水素の役割は大きい。
◇市民◇ 理解拡大へ情報発信
一方で、市民への水素に関する情報発信が目下の課題だ。神戸市は23年度から市バスの一部系統で、燃料電池車(FCV)の運行を始めた。車体の天井部にあるタンクに貯蔵した水素を大気中の酸素と反応させ、発生した電気でモーターを動かす。市民生活に根付く市バスの燃料に水素を活用し、水素を身近に感じてもらう。災害による停電時に、避難所などに電力を供給するためのバッテリーとしての役割も持つ。
また、ゴミ処理場の港島クリーンセンターには水素の情報発信エリアを整備する予定だ。早ければ本年度中のプレオープンと24年度の見学者の本格的な受け入れを始める。同クリーンセンターの南側に位置する神戸空港島にあるハイタッチ神戸や、南東側に整備予定の水素技術の実証フィールドが一望できるようにする。
