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「ウィズコロナ」へ政策転換 社会経済活動との両立目指す
新型ワクチン 日本の開発体制弱点浮き彫りに
新型コロナが日本に上陸した3年前。当時は、まだ未知のウイルスでその感染力や重症化率など科学的データが世界的にもそろっていなかった。このため、当時の安倍晋三政権は、緊急事態宣言を出し、唐突ともいえる学校休校に踏み切る新型コロナ対策を打ち出した。有効な新型コロナワクチンも承認されておらず、新型コロナを感染症法上で「2類相当」に分類し、それを根拠として、第6波に至るまで「飲食」や「移動」の行動制限、検疫強化など水際対策を繰り返した。
この間、海外では、フランスや中国のように外出禁止をはじめとするロックダウンなどの強制的な措置をとる国と、緩やかな措置にとどめる国に分かれた。日本は中間的な位置付けで、極端な措置はとらず、一部の行動制限にとどめた。
「新型コロナ対策の切り札はワクチン接種」―。現在も厚生労働省幹部はこう言い切る。感染力も重症化率も高いデルタ株から、重症化率は高くなくても、感染力がかなり強いオミクロン株へと変異株の主流は移り変わってきた。変異株の特性に合わせてワクチンも変わっている。もっとも、米国など海外勢の開発したワクチン頼みで、その構図は3年前も今も変わっていない。
新型コロナは、日本の医薬品開発体制の弱点を浮き彫りにした。新型コロナワクチンを巡って、米国など海外勢はいち早く開発し、すさまじい勢いで生産・販売に至った。「ワクチン敗戦」に危機感をもった政府は、緊急薬事承認制度を含めた改正医薬品医療機器法(薬機法)を22年5月施行し、塩野義製薬の新型コロナの飲み薬「ゾコーバ」が同年11月末に薬事承認され、同制度に基づく承認第1号となった。
加藤勝信厚生労働相も「新たな治療の選択肢の一つで、しかも国産ということで期待している」と歓迎した。これにより、国産の医薬品が早期に薬事承認される道筋が開かれた。
一方で緊急承認制度の課題も浮上した。同制度をどう運用していくか、審査基準が不透明なままだ。早く承認できるよう緊急時には薬の有効性が「確定」していなくても「推定」できればよいというのが制度趣旨だった。ところが「推定」とは何か。緊急性とは何かが明確になっていない。
「5類」移行 医療への影響懸念 行動規範が焦点
新型コロナ対策が国産治療薬の登場など環境が整いつつあるのに伴い、新型コロナの感染症法上の分類を見直す。感染症法は、感染症の重症化のリスクや感染力に応じて、エボラ出血熱などの「1類」から、季節性インフルエンザなどの「5類」まで分類している。
新型コロナは現行「2類相当」に分類している。結核などが「2類」に当たるものの、「2類相当」の新型コロナは「2類」よりもさらに強い感染防止対策がとれるようになっている。政府や都道府県に強い権限が与えられ、就業制限や入院勧告、外出自粛の要請も行うことができる。
「5類」に引き下げられると何が変わるのか。季節性インフルエンザと同じ扱いで、入院患者の受け入れが、一般の医療機関でも可能になる。併せて、感染者や濃厚接触者に求められている待機期間はなくなる。ただ、感染した場合、季節性インフルエンザと同じで、周囲に広げない行動が求められる。
一方で、現在、全額公費で負担されている入院や検査の費用に、自己負担が生じることになる。受診控えから感染発覚や治療が遅れてしまうケースも懸念されている。ワクチン接種も原則自己負担が発生することになる。
政府の分類見直しについて、専門家はどうみているのか。厚労省の新型コロナウイルス感染症の専門家組織「アドバイザリーボード」の脇田隆字座長は、「感染症法上の類型を見直しても適切な対応を継続しないと、医療に大きな影響が出る。段階的な対応が必要」とし、分類見直しの影響を表明した。こうした専門家の意見を受けて、政府は医療費やワクチン接種について、当面は公費負担を継続する方向だ。マスク着用ルールについては、電車など公共交通機関や医療機関など一定の場所を除き、原則個人の判断に委ねることを基本とする。
新型コロナは今後も地球上からなくなることはない。どう感染を防ぎながら、社会経済活動を回復させていくか。行動制限がなくなれば、国民一人ひとりにリスクを避ける行動が問われる。個人の感染対策を踏まえた企業の対応が重要になる。
政府は業界や企業の参考となる行動規範をどう導いていくかという課題に直面する。分類見直しや緊急承認制度の審査基準の明確化などの課題とともに、ウィズコロナを見据えた難しい新型コロナ対策のかじ取りが求められる。