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自動車部品/コア技術で新事業立ち上げ―多角化進める車部品
脱炭素対応を背景に変革を迫られる自動車業界。電動化による内燃機関部品のピークアウトなど、既存事業の縮小を予測する企業も多い。自動車部品メーカー各社は、長年培ってきたコア技術を生かし、新たな分野を開拓。次世代の収益の柱となる新事業を立ち上げ、育成し多角化に挑んでいる。成長市場に参入する各社の取り組みを追った。
排ガス浄化応用、CO2回収
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日本ガイシのDAC向けハニカム構造吸着材
日本ガイシは主力の自動車排ガス浄化装置の製造技術を応用し、大気中から二酸化炭素(CO2)を直接吸収・回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」向け製品を開発している。セラミックス製の吸着材で2030年に欧州市場投入を目指す方針だ。
格子状の穴の中にCO2を吸収する素材を塗布した、セラミックス製のハニカム構造体を開発している。ファンで空気を送り込むとCO2を回収する仕組み。吸着材で求められる性能は圧力損失や体積当たりの回収量、耐熱性などで、自動車排ガス浄化装置における強みと重なる部分が多い。セラミックスの押し出し技術や焼き固めるといった工程もほぼ同じだ。
同社は30年に内燃機関向け製品の需要が頭打ちになるとみる。欧州法人のNGKヨーロッパ(独ヘッセン州)の武田竜悟社長はDAC製品について「中長期的に自動車向け製品と同様の規模感になるだろう」と予想し、減少する売上高の補完と生産体制を維持する役割を期待している。
大同メタル工業は自動車エンジン用のすべり軸受で培ったノウハウを風力発電機向けに展開する。25年にもチェコに新工場を建設し、同市場に参入する。長寿命・高品質なすべり軸受を展開し、発電機の補修期間の最適化や維持費用の低減につなげる。
同社ではまず風力発電機のタービン向けにすべり軸受を生産・出荷する。洋上・陸上に関わらず風力発電市場を開拓する。風力発電機では現在主に、転がり軸受が採用されている。ただ、メンテナンスには大型クレーンを使うなど多大な費用が必要だった。故障部分のみを交換できるすべり軸受を活用することでコストや修繕においてメリットが期待できる。
岡谷鋼機は、製造現場や物流現場における工作機械やロボットの提供にさらなる付加価値を持たせるため、ソフトウエア事業を強化した。オフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)からシステム構築やロボット関連の制御事業を買収し「新エフエイコム」(同)として傘下に収めた。製造・物流現場はデジタル化や自動化のニーズが強い。岡谷鋼機がこれまでに強みとしていたハードの提供だけでなくソフトも一貫して構築することで、人手不足や人件費上昇、サイクルタイムの改善など顧客の競争力強化を後押しする。
農業向け 相次ぎ新製品
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フタバ産業の木質バイオマス燃焼式光合成促進システム
フタバ産業も排ガス浄化技術を活用し、農業向け製品を開発している。17年に開発・発売したCO2貯留・供給装置「アグリーフ」は、夜間にハウスの室温を保つために使う暖房機から発生するCO2のみを貯留。日中、光合成が活発な時間にハウスに供給して光合成に再利用できる。
作物付近のみCO2濃度を高め、光合成を促進することで収穫量アップにつなげる。これまで捨てていたCO2をリサイクルするためランニングコストは不要。環境意識の高まりやエネルギーコストの高騰から採用が増えているという。
同社は脱炭素社会に向けた新事業を検討しており、農業事業はその一環。これまで、協定を結んでいるJAあいち三河(愛知県岡崎市)、愛知県岡崎市、同幸田町と連携し製品の改良に注力してきた。
23年10月には農作物の光合成を促進する「木質バイオマス燃焼式光合成促進システム」を新開発したと発表。化石燃料使用の燃焼式CO2発生機の代替技術として、樹木由来のバイオマスを使用する同製品の普及を目指し、実用化を急ぐ
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東海理化の「ゼンエイム」のロゴとキーボード
東海理化は自動車部品事業で培った操作性やセンサー・スイッチ技術を生かし、eスポーツ関連事業に参入した。ゲーミングギアブランド「ZENAIM(ゼンエイム)」を立ち上げ、第1弾として磁気センサースイッチを搭載したゲーム向けキーボードを5月に発売。同製品は磁気の変化をセンサーで読み取り、デジタル変換する。キーの端や中央など、どこを押してもオン・オフ操作できる。
また自分好みにカスタマイズできるソフトウエアも展開する。ユーザーにとっての使いやすさを追求し、シンプルな動線で全ての設定をスムーズで直感的に行える。ゼンエイムではデザイン性や高品質を備えたハードだけでなく、デバイスを制御するソフトにもこだわり、不便を取り除いた“常識を変えるギア”を展開するという。
内外装ノウハウ 寝具に応用
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イノアックコーポレーションの新装オープンの販売店
アームレストやエンジンカバーなど自動車の内外装を手がけるイノアックコーポレーション(名古屋市中村区、野村泰社長)は、本社1階のウレタン製寝具ブランド「カラーフォーム」の販売店を8月に新装オープンした。従来から本社内に販売店を構えていたが、より人目につきやすい大通り側に移設し、地域住民や近隣オフィスで働く会社員らに訴求する。
店舗は名古屋市営地下鉄の栄駅と久屋大通駅をつなぐ地下商業施設「セントラルパーク」(同中区)に開設。ウレタン製のマットレスやソファ、クッションなどを扱い、顧客は使用感などを販売員に相談しながら購入できる。寝具を30分間試せる体験ルーム、身長や体重、骨格を基にお勧めの寝具を人工知能(AI)が自動で選定するアプリケーションも活用して寝具選びを支援する。
同社は内外装部品で培ったノウハウを寝具や生活用品に応用する。これまで百貨店のプライベートブランドなどOEM(相手先ブランド)生産が中心だったが、約2年前から自社ブランドとして販売を強化している。
新規事業を加速させるために、収益源となる事業基盤の安定化に取り組むのは日本特殊陶業だ。7月に、デンソーからエンジン点火(スパーク)プラグと排ガスセンサーの事業を譲り受けることについて基本合意した。国内外の開発、製造、販売機能について、24年3月までの正式合意を目指して協議している。
日特陶の川合尊社長は、電動化によって内燃機関向け製品の需要が長期的に減少することを認めた上で「部品メーカーの統合などをしないと、安定して安くて良い品質のモノが届けられなくなる」と危機感を示す。デンソーから譲り受ける生産体制を最適化することで、利益を生み出す基盤を強固にし、次世代領域へリソースを振り向ける。