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カーボンニュートラル実現に向けた自動化旋盤のDX技術
旋削加工
2020年に菅義偉首相(当時)が、日本は50年にカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成を目指すと宣言をした。実現には温室効果ガス排出量削減、二酸化炭素(CO2)吸収作用の保全や強化が必要となる(※1)。工作機械においては、ライフサイクル全体での温室効果ガス排出削減に向けた取り組みが重要となる。その一方で生産年齢人口の減少に伴う、生産現場の自動化への要求も多い。当社は約30年前から機械の小型化・省エネルギー化に取り組み、08年に「USLシリーズ」が旋盤として初の優秀省エネルギー機器表彰を受賞した。第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)では、長年の取り組みをさらに発展させた2機種を出展した。ここではその機種にも搭載した旋盤の自動化に配慮したCNにつながるデジタル変革(DX)技術について述べる。
ローダー速度最適化機能
生産の効率化が求められる中、サイクルタイムを少しでも速くしたい要望は多い。その一方で実加工時間と加工品を旋盤の機内に搬入、排出するローダーの作業時間がアンバランスとなり、どちらかが停止している無駄が発生することもある。
当社最新のローダーシステム(Fローダ)では、加工時間に対してローダーの1サイクルの時間の方が短く待機時間が生じる場合に、自己学習によりローダーの機外動作のみ必要十分な速度まで自動的に落とす機能を搭載した。
社内評価での事例(加工と加工品の自動脱着の1サイクルが30秒の場合を想定)で削減効果を説明する。ローダー速度100%ではローダーの機外動作より加工時間が長く12秒のローダー待機時間が発生するが、待機時間分を考慮したローダー速度に変更することで、サイクルタイムに影響を及ぼすことなくローダーの消費電力量の削減が可能となる(図1)。削減した消費電力量は画面上でも確認が可能である。また、ローダーが常に高速で動き続けることがなくなることで、駆動部の負荷低減による要素部品の長寿命化も可能となる。
省エネルギーレベル選択機能
日々の生産状況次第では、毎日最短のサイクルタイムでの生産が必要でない場面も想定される。本機能は主軸加減速時の出力を抑えることで、加工時間短縮を優先する運転と消費電力量削減を優先する運転の切り替えが可能となる。
社内評価試験で、主軸加減速100%から70%に切り替えて運転した場合、サイクルタイムは2%増加するが、消費電力量は4%削減の結果が得られた。
例えば、真夏や真冬の日中に電力逼迫(ひっぱく)による使用制限要望があった場合に、日中は消費電力量削減を優先、夜間は加工時間短縮を優先といった運用が可能となり、省エネルギーを実現しながら生産活動を行うことが可能となる。
Tーサポートシステム
生産の自動化において、加工精度の安定化や機械の状態監視が求められる。当社は金沢大学との産学連携で、少数位置の温度変化から機械の熱変位を予測し補正を行うシステム「Thermony(サーモニー)」と、センシングデータから求められる特徴量を用いて主軸軸受の状態監視を行うシステム「Spimony(スピモニー)」を開発した。
サーモニーは特に機械設置雰囲気温度の変化が大きな環境下で効果が得られる。スピモニーは機械間に共通な特徴空間を用いて状態監視が可能なため、従来手法での仕様ごとにしきい値が異なる課題や、ノイズなどによる誤診断が少なくなる(図2)。
稼働モニターアプリ
本機能は、自動運転中の機械を少人数で集中的に監視したいという要望に応える機能である(図3)。最大10台分の運転状態やアラーム内容、潤滑油補給や工具交換による停止までの残り時間や停止要因をスマートフォンに表示できる。また、機械状態を生産停止予定順に一目で確認できる。これらの機能により常に状態把握と最適状態での使用が可能となる。
最後に
機械の小型化、省スペース化に加え、ムダを省き最適状態で使うことで、CN実現への貢献ができると考える。
今後はそれに加え、熟練作業者に頼っていた切削の「カンコツ」などもデータ化が進み、完全自動加工が可能な旋盤が求められるのではないだろうか。これからは「CN+DX」を満足する旋盤の開発が必要であると考えている。
【参考文献】
(※1)環境省 脱炭素ポータルサイト
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/
【執筆者】高松機械工業 技術部
技術士(機械部門)、博士(工学)
金子 義幸