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京都産業界
にぎわいと課題ー観光地の将来像
多くの観光客が訪れる京都が、さらなるにぎわいを見せそうだ。京都に本社を置く世界的ゲームメーカーの任天堂が、歴代製品を展示する施設を開業した。新たな名所の誕生が注目される一方で、過度な混雑が招くオーバーツーリズム問題の対策が急務。京都ならではの観光地の将来像を示せるかが問われる。
ニンテンドーミュージアム開業
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巨大化したコントローラーを協力して操作する -
ワークショップで、任天堂創業時の花札製作が疑似体験できる
任天堂が創業から約130年の歴史を詰め込んだ施設「ニンテンドーミュージアム」(京都府宇治市)を開業した。同社祖業の花札から最新ゲーム機「ニンテンドースイッチ」に至るまで、任天堂が世に送り出した歴代の家庭用玩具(がんぐ)を展示する。また、過去の製品に最新の技術を取り入れた新しい遊びも用意している。
同施設は花札やトランプの製造、ゲーム機の修理をしていた「宇治小倉工場」を再利用。任天堂が過去の製品を保管・管理する施設の設置を検討していたことや、近鉄京都線・小倉駅周辺の活性化を図りたい宇治市の意向、駅から近い交通アクセスの良さなどから、宇治小倉工場のリノベーションを決めた。
マリオの生みの親である宮本茂代表取締役フェローは同施設の展示内容について「ベースは私が新入社員に『任天堂とはなんぞや』を話すセミナーの内容」と明かす。このセミナーでは「コントローラーの進化」の説明があるという。施設の一角にも歴代のコントローラーを展示。携帯型液晶ゲーム機「ゲーム&ウォッチ」で初登場した十字キーなど「当社のプライドがあるゲーム機で世界初の技術」(同)がどのように生まれ、変遷してきたかを紹介する。
ミュージアムには任天堂が1983年以降に国内で発売したほぼ全てのゲームソフトを展示。床面ディスプレーに映した札をスマートフォンを使って取る百人一首や、巨大化した歴代ゲーム機のコントローラーを2人1組で操作して遊ぶゲームなども体験できる。
宮本フェローは「任天堂が面白いことを分かりやすく伝えるのが得意な会社と知ってほしい」と強調する。
任天堂代表取締役フェロー 宮本 茂氏 /隆盛なモノづくり継続
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任天堂代表取締役フェロー 宮本 茂 氏
ゲーム機や年何百本と発売されるソフトを残す必要があるが、管理がとても難しい。社内でも任天堂らしさの維持が大変になってきた。過去の資産を残し、それを通じて社員に任天堂を理解してもらうのならば、任天堂を知る親子三世代にも見てもらおうとニンテンドーミュージアムの開設を決めた。モバイルはどうだ、先端のチップを使わないのかなどと言われるが、適切な売り時に製品化してきた歴史が見られる。
当社はゲーム機に限らず、任天堂らしいコンテンツを作り続ける。それを知ってもらい、高性能を求める〝ゲーム機戦争〟に巻き込まないでほしい。
栄えた者も必ず滅びるから、新しく栄えたモノを作る。よどまず流れ続けるという考え方が京都に根付いており、エンターテインメント会社に必要な考え方。「京都の田舎でくすぶらず、東京に行かなくては」と思ったこともあるが、ここでは周りに踊らされず自分が信じるモノを作れる。結果それが世界で売れる。京都がグローバルなのではない。東京もローカルであって、はやりに誘われ日本だけで売れるモノを作ってしまうのではないか。
ミュージアムは現状の展示でほぼ埋まった。これからの任天堂の製品については、展示・保存する価値のあるモノが増えてくれば、新しい場所の手当を含め展開を検討したい。(談)
オーバーツーリズム対策
観光関連産業のV字回復とともにコロナ禍前と同じく、市民生活の弊害となるオーバーツーリズムが問題となっている。京都市は昨秋の課題などを踏まえ、急増するインバウンド(訪日外国人)らの観光客受け入れと持続可能な観光の実現に向け、今秋の観光対策を取りまとめ、順次進めている。
目玉対策は京都駅と市内宿泊施設を巡回する専用バス「ハンズフリーバス」の運行。便数が少なく認知度もまだ低いが、専用バスでまず宿泊施設に行って荷物を預けてもらい、手ぶら観光を促す。スーツケースを抱えて市バスに乗り、観光地や宿泊施設に向かう人は多く、市民が乗りづらくなっていた。
このほか、多言語対応の期間限定案内所開設、観光関連産業の従業員が外国人観光客に使える英語フレーズ集配布、スマートゴミ箱新設など新規対策も多く、実効性が試される。